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平成12年横審第108号
件名

漁船第二わかば丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年12月19日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、葉山忠雄、花原敏朗)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:第二わかば丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)

損害
ピストンとシリンダライナの摺動部に多数のかじり傷

原因
異物落下防止の配慮不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の潤滑油こし器を開放掃除するに当たり、同こし器内への異物落下防止の配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月4日15時10分
 静岡県焼津港内

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二わかば丸
総トン数 349トン
登録長 55.97メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
回転数 毎分600

3 事実の経過
 第二わかば丸(以下「わかば丸」という。)は、昭和59年2月に進水した、大中型まき網漁業に従事する全通2層甲板型の鋼製漁船で、極洋水産株式会社が運航して赤道付近の漁場でかつお、まぐろ漁を周年行っており、主機として株式会社新潟鐵工所が製造した8MG31FZE型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、トランクピストン型で、鋳鉄製のシリンダブロック及び台板がタイロッドで締め付けられ、同ブロックのジャケット部にシリンダライナが挿入された上にシリンダヘッドが載せられ、船首側から順にシリンダ番号が付されていた。また、各シリンダライナの周囲に冷却ジャケットを形成するために、同ライナ下部にゴム製Oリングが4本装着され、同リングからの冷却水漏れを点検する窓が同ブロックの右舷側に設けられていた。
 ピストンは、球状黒鉛鋳鉄の一体鋳造製で、ピストンヘッド内にカクテルシェーカー方式の冷却室を有し、ピストンリングとして3本の圧縮リングと2本の油かきリングが取り付けられ、ピストンピンで連接棒小端部に連結されていた。
 クランク軸は、一体鍛造型で、各クランクピン部には船首側ジャーナル部と連絡する油穴が空けられ、8番クランクスローの後部に伝動歯車とフライホイールが取り付けられていた。
 主軸受は、各シリンダ間と前後端の9箇所に幅広のものが、また、伝動歯車とフライホイールとの間に基準軸受としてやや狭いものがそれぞれ置かれ、台板の軸受台と鋳鉄製のキャップに下及び上メタルを収めて各4組のスタッドボルトとナットで締め付けられ、キャップの上面に潤滑油入口穴が空けられていた。
 主機の潤滑油系統は、機関室二重底の潤滑油サンプタンク(以下、潤滑油系統の機器、装置については潤滑油を省略する。)中の潤滑油が、主機直結ポンプまたは電動の補助ポンプによって加圧され、冷却器及びこし器を経てシリンダブロック右舷側の主管に入り、枝管で主軸受、カム軸受、伝動歯車などに分岐して各部を潤滑し、主軸受に入ったものの一部はクランク軸内の油穴、クランクピン軸受及び連接棒内を貫通する油穴を経由したのち、連接棒小端部からピストン内面に噴出してピストンを冷却するもので、潤滑及び冷却を終えた潤滑油が台板に落下し、再びサンプタンクに戻るようになっていた。
 主軸受に潤滑油を送る枝管は、内径21.6ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ650ミリで、呼び径100ミリの主管から分岐し、主軸受キャップと接続する小判型フランジが2本のボルトで締め付けられていた。
 こし器は、逆洗可能な2筒式で、鋳鉄製本体の上に円筒形ケーシングを載せて形成されるエレメント室に、ろ過能力が30ミクロン、外径202ミリ高さ800ミリのノッチワイヤ式エレメントを収めて、ケーシング上に鋳物製の蓋(ふた)をかぶせてあり、ろ過状態ではエレメントの外側から内側に向かって通油されていた。また、本体の切替コックを操作すると、単独のエレメントに通油したり、片側を逆洗することができるようになっていた。
 ところで、こし器は、ケーシングの半径に対して高さが大きく、エレメントを抜き出して掃除している間にこし器内に異物を落とすと、発見が困難なので、異物を落とさないよう十分な注意が必要であった。
 わかば丸は、年間の運転時間が6,000時間を超え、毎年9月に検査入渠又は合入渠する都度、主機の全シリンダについてピストン抜き整備が行われ、ピストンリングが新替えされており、主軸受については、定期検査の時期に上半部が開放点検されていた。
 A受審人は、平成7年8月に一等機関士として乗船し、同年12月から機関長として機関全般の運転と整備の管理に携わり、主機のこし器については、通常は出入口の差圧が大きくなることがなかったので逆洗操作を行わず、専ら定期的にエレメントを抜き出して掃除をするよう計画し、自ら作業を行っていた。
 わかば丸は、平成11年9月に合入渠し、主機の全シリンダについてピストンリングの新替えを含む整備が行われて同月末に出渠し、同年10月初めから主に静岡県焼津港を基地として30日ないし50日の操業を繰り返し、翌12年3月30日16時30分静岡県焼津港に入港し、同月31日に水揚げを行ったのち、次の操業に向けて準備が行われた。
 A受審人は、同年4月4日09時00分ごろ、一等機関士とともに定期作業としてこし器の掃除にとりかかり、エレメント室の潤滑油を排除したうえで抜き出したエレメントを、同機関士が軽油で洗浄し、圧縮空気で微細な異物を吹き飛ばしている間に、組立ての準備を行ったが、こし器の掃除に慣れているので大丈夫と思い、落下しにくい大きいサイズのウエスを使うなど、こし器内に異物を落とさないよう十分に配慮をすることなく、小さく切ったウエスでケーシングの拭取りを行い、掃除の済んだエレメントをケーシング内に挿入し、蓋をかぶせて復旧した。
 作業で使ったウエスは、ケーシング拭取りの際、こし器内に落下してエレメント着座部に残っていたところ、こし器内の空気抜きのために補助ポンプが短時間運転され、主機への配管に送られた。
 主機は、始動準備のために13時50分補助ポンプが始動され、潤滑油系統に潤滑油が送られ始めたが、ウエスが主管に侵入して2番主軸受の枝管に入り、同軸受入口に詰まり、同軸受とクランク軸内の油穴を経て2番連接棒へ送られる潤滑油量が減少したので、出力を上げると2番ピストンが冷却不足になるおそれが生じた。
 A受審人は、14時10分主機を始動し、毎分回転数320(以下、回転数は毎分のものとする。)の中立回転で待機運転とし、主機各部の見回りをして潤滑油圧力、音響などに異状のないことを確認したのち、一等機関士に連絡して船橋に上がった。
 こうして、わかば丸は、A受審人ほか19人が乗り組み、船首3.4メートル船尾5.5メートルの喫水をもって、14時50分焼津港を発し、主機を320回転として進行するうち、冷却が阻害された2番ピストンが過熱してピストンヘッドが過大に膨張し、シリンダライナと金属接触するとともに、ピストンリングが固着して燃焼ガスがクランクケースにブローバイし始め、焼津港北防波堤の外に出て410回転に増速したところ、15時10分焼津港沖南防波堤灯台から真方位327度210メートルの地点で、クランクケース内のオイルミストに着火して爆発を生じ、同ケースの安全弁が作動した。
 当時、天候は曇で風力1の北東風が吹いていた。
 A受審人は、船橋最上段の副操舵室で主機の操縦に当たっていたが、機関室から駆けつけた一等機関士から主機異状の報告を聞き、急ぎ機関室に降り、白煙の漂う中で直ちに主機を停止するとともに、2番シリンダが過熱してシリンダライナ下部のOリングから冷却水が漏えいしていることを認め、主機が運転不能であることを船長に報告した。
 わかば丸は、スキフボートでえい航され、焼津港に引き付けられたのち、主機の点検が行われ、2番シリンダのピストンリングがすべて固着し、同ピストンとシリンダライナの摺動部(しゅうどうぶ)に多数のかじり傷を生じ、連接棒がピストンピン及び同ブッシュの過熱で変形していることが認められ、2番主軸受入口に詰まっていたウエスが除去されたうえ、損傷部品と汚損した潤滑油が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機のこし器を開放掃除するに当たり、こし器内への異物落下防止の配慮が不十分で、作業中に使用したウエスがこし器内に落下し、主機の主軸受入口に詰まり、ピストン冷却が阻害されたまま主機が運転されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機のこし器を開放してエレメントを掃除する場合、ケーシングを拭き取るときに落下しにくい大きいサイズのウエスを使うなど、こし器内への異物落下の防止に十分配慮すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、こし器の掃除に馴れているので大丈夫と思い、こし器内への異物落下の防止に十分配慮しなかった職務上の過失により、拭取りに使われたウエスがこし器内に落下し、潤滑油の流れでウエスが主管に侵入し、2番主軸受入口に詰まったまま主機が始動され、冷却が阻害された2番ピストンが過熱し、ピストンヘッドが過大に膨張する事態を招き、ピストン、シリンダライナ等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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