(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月25日07時25分
北海道紋別港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十二寅丸 |
総トン数 |
124.95トン |
登録長 |
32.26メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
回転数 |
毎分660 |
3 事実の経過
第五十二寅丸(以下「寅丸」という。)は、昭和58年1月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として阪神内燃機工業株式会社(以下「阪神内燃機」という。)が製造した6MUH28型と呼称するディーゼル機関を備え、可変ピッチプロペラを装備していた。
主機は、負荷制限装置の付設により計画出力956キロワット同回転数毎分550(以下、回転数は毎分のものを示す。)として登録され、同出力におけるプロペラ翼角が21.6度であった。また、主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付されており、シリンダヘッドの船首方及び船尾方の左右両側に排気弁及び吸気弁が直接組み込まれた4弁式構造で、各弁が動弁装置により駆動されていた。
主機の吸気弁及び排気弁は、いずれも全長402ミリメートル(以下「ミリ」という。)弁棒軸部基準径22ミリ弁傘部直径105ミリの耐熱鋼製きのこ弁で、弁座との当たり面の弁傘部と弁棒頂部とにステライト盛金が施され、排気弁の同頂部にバルブローテータが装着されていた。
A受審人は、寅丸に就航以来機関長として乗り組み、主機の運転保守にあたり、通常の航海全速力前進時に主機をほぼ回転数660、プロペラ翼角を16.5度までとしており、休漁期間を利用して平成12年3月上旬には、定期整備の目的で、鉄工所による主機のシリンダヘッドの取外しを行い、吸気弁、排気弁の取替えや摺り合わせなどの措置をとることとした。
ところで、主機の吸気弁(種類記号SUH3)及び排気弁(同記号SUH31)は、それぞれ耐熱強度が異なる専用のもので、識別のために弁棒部に溝が加工されており、また、整備の際に弁傘部ステライト盛金の厚さが減少して交換された排気弁は、熱負荷により材質が変化していて腐食や亀裂が生じやすくなるので、吸気弁として再び使用しないように機関メーカー側から指導されていた。
しかし、A受審人は、主機のシリンダヘッドを取り外した際、吸気弁の使用の可否について軽く考え、排気弁の交換品を吸気弁に転用しても大丈夫と思い、同弁を専用のものと取り替えるなど適切に整備する措置をとることなく、弁傘部ステライト盛金の厚さが減少して交換した排気弁を5番シリンダの右側吸気弁に組み込む措置をとった。その後、寅丸は、同月中旬に操業が再開され、同吸気弁が経年衰耗したままに主機の運転が続けられているうち、その弁傘部表面に腐食が生じ、これが微細な亀裂となって次第に進行していた。
こうして、寅丸は、A受審人ほか12人が乗り組み、船首1.7メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同年8月23日23時30分紋別港を発して同港北方沖合の漁場に至り、翌々25日操業を行い、主機回転数660、プロペラ翼角14.0度として5.0ノットの対地速力で曳網中、5番シリンダの右側吸気弁が弁傘部の前示亀裂箇所でついに折損し、07時25分北緯45度14.0分東経143度15.5分の地点において、同弁傘部が落下してピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、同機が異音を発した。
当時、天候は曇で、風力3の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、甲板上で異状に気付いて機関室に急行し、主機を停止した後、5番シリンダの動弁装置の弁押えが曲損していることを認め、シリンダヘッドを取り外してピストン頂部等の損傷を発見し、運転の継続を断念してその旨を船長に報告した。
寅丸は、僚船により紋別港に曳航され、主機を精査した結果、弁傘部の破片による5番シリンダのシリンダヘッド、シリンダライナ及び過給機タービン部等の損傷が判明し、のち各損傷部品が新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、主機吸気弁の整備が不適切で、同弁が経年衰耗したまま運転が続けられ、弁傘部の亀裂が進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、定期整備の目的で、主機のシリンダヘッドを取り外した場合、運転中に吸気弁に腐食や亀裂が生じることのないよう、同弁を専用のものと取り替えるなど適切に整備する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、吸気弁の使用の可否について軽く考え、排気弁の交換品を吸気弁に転用しても大丈夫と思い、同弁を専用のものと取り替えるなど適切に整備する措置をとらなかった職務上の過失により、同弁が経年衰耗したままに運転を続け、弁傘部の亀裂の進行による折損を招き、弁傘部を落下させ、ピストン、シリンダヘッド、シリンダライナ及び過給機タービン部等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。