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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年門審第20号
件名

漁船第三日豊丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年11月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、佐和 明、西村敏和)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第三日豊丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
過給機ノズルリングとタービン翼を損傷

原因
主機吸気弁及び排気弁の注油状態の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機吸気弁及び排気弁の注油状態の点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月24日12時40分
 豊後水道

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三日豊丸
総トン数 90トン
登録長 25.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分400

3 事実の経過
 第三日豊丸(以下「日豊丸」という。)は、昭和59年8月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したMF24−UT型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、6番シリンダヘッドの船尾側に過給機と空気冷却器が設置されており、動力取出軸で増速機を介して発電機を駆動できるようになっていた。
 シリンダヘッドは、船首側に排気弁1本が弁箱により、船尾側に吸気弁1本が同ヘッド触火面側からそれぞれ組み込まれ、各弁を開閉するロッカーアーム及びロッカーアーム軸などの動弁装置が配置され、同ヘッド上部がヘッドカバーで密閉されており、同ヘッド及び排気弁箱が清水により冷却されていた。
 主機の弁腕注油系統は、主機システム油系統から独立しており、主機の後部右舷側側面に設置された容量約18リットルの弁腕潤滑油タンクから油こし器を通って直結の弁腕潤滑油ポンプで吸引して加圧された潤滑油が、油圧調整弁を経て入口主管に入り、各シリンダごとの枝管を経由して異心形ロッカーアーム軸の吸気弁側と排気弁側に分岐して同軸受に導かれ、更に二方に分流し、一方はロッカーアームの油孔を経て吸・排気弁の弁棒頂部に注油され、弁棒と弁案内の摺動部やコッタ装着部などを潤滑し、他方はプッシュロッドに注油されたのち、戻り油主管で合流し、同タンクに戻って循環するようになっており、通常航海時の主機回転数を毎分350として運転中、圧力が0.6キログラム毎平方センチメートルに調整され、吸・排気弁の作動状況により注油量を調整できるよう各シリンダのロッカーアーム上面に注油量調整ねじが設けられていた。
 ところで、ロッカーアーム軸受は、軸受ブッシュが取り付けられておらず、同軸受の両端にOリングが装着されて油密が保持されていたが、軸受の摩耗が進行して間隙が増大すると油密が保持されず、同軸受からの漏油量が増加して各弁への注油量が不足するおそれがあった。
 A受審人は、就航時から機関長として乗り組み、機関の運転と保守に当たり、和歌山県勝浦港などを基地として、太平洋中西部のマーシャル諸島及びカロリン諸島付近の漁場において、1航海が約40日間の操業を年間あたり5回ないし6回繰り返し、年間約3,600時間の主機の運転に従事していた。
 日豊丸は、平成10年5月に第一種中間検査工事のため入渠し、業者により、主機のピストン抜出し及びシリンダヘッド整備を含む開放整備が行われた際、2本の排気弁、全数の同弁案内及び同弁すきま調整ねじが新替えされ、弁腕潤滑油タンクの掃除と同潤滑油ポンプの開放点検などが行われた。
 A受審人は、主機整備を終えて操業再開後、始動時に、主機システム油量、弁腕潤滑油タンク油量及び冷却清水量の点検とそれぞれの消費量に見合う潤滑油及び清水の補給を行っていたが、運転中、ヘッドカバーを開けてのシリンダヘッドの点検は、基地出港前と漁場においてそれぞれ1回程行うのみで、機側計器盤の弁腕注油圧力に異状がなかったことから、吸・排気弁の潤滑油が不足することはないものと思い、定期的にヘッドカバーを開けて吸・排気弁の注油状態を点検することなく、そのまま運転を続けていたので、2番シリンダの排気弁側ロッカーアーム軸受の摩耗が進行して間隙が増大し、同軸受からの漏油量が増加するようになり、いつしか同排気弁への注油量が不足気味となっていることに気付かなかった。
 こうして、日豊丸は、操業を終えて同11年8月21日勝浦港へ帰港して水揚げを行ったのち、A受審人ほか2人が乗り組み、回航の目的で、同月23日09時30分同港を発し、母港の大分県保戸島漁港に向け、主機の回転数を毎分350の全速力前進にかけて航行中、依然として吸・排気弁の注油状態が点検されず、2番シリンダ排気弁の潤滑油が不足したまま運転が続けられているうち、同弁棒と弁案内との潤滑が阻害されて固着し、翌24日12時40分水ノ子島灯台から真方位223度1.0海里の地点において、弁がさ部がピストンにたたかれて弁棒付根部の少し上方で折損し、シリンダヘッドとピストンに挟撃(きょうげき)され、弁がさの一部が欠損して破片が過給機に侵入し、主機が大音響を発した。
 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、自室で休憩中、異音に気付いて機関室に赴き、過給機の消音器付近から清水が噴出していることを認め、主機を停止して点検したところ、2番シリンダ排気弁のプッシュロッドが曲損していることを発見し、運転不能と判断して援助を要請した。
 日豊丸は、僚船と引船に曳航(えいこう)されて大分県下ノ江港に引き付けられ、同港において主機を開放した結果、前示の損傷のほか、2番シリンダのシリンダヘッドの触火面に破口を、同シリンダのピストンに打痕をそれぞれ生じ、過給機ノズルリングとタービン翼の損傷などが判明し、のち損傷部が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機吸・排気弁の注油状態の点検が不十分で、排気弁ロッカーアーム軸受からの漏油量が増加して同弁の潤滑油が不足したまま運転が続けられ、同弁棒と弁案内との潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守に当たる場合、吸・排気弁の潤滑が阻害されることのないよう、定期的にヘッドカバーを開けて吸・排気弁の注油状態の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、弁腕注油圧力に異状がなかったことから、潤滑油が不足することはないものと思い、ヘッドカバーを開けて吸・排気弁の注油状態の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、2番シリンダの排気弁ロッカーアーム軸受からの漏油量が増加して同弁の潤滑油が不足していることに気付かないまま運転を続け、潤滑阻害による同弁棒と弁案内との固着を招き、ピストンにたたかれて同弁棒を折損させ、シリンダヘッド、ピストン、プッシュロッド及び過給機などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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