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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年長審第44号
件名

漁船第九十三大島丸機関損傷事件
二審請求者〔理事官 弓田雄〕

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年10月3日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、平田照彦、亀井龍雄)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第九十三大島丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
シリンダブロックの破損、航行不能

原因
主機運転中、ピストン冷却ノズルが閉塞し、ピストンが過熱

主文

 本件機関損傷は、ピストン冷却ノズルが閉塞してピストンが過熱したことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月22日11時00分
 長崎県平戸島北東部沿岸(白岳瀬戸)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第九十三大島丸
総トン数 19トン
登録長 18.96メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 405キロワット
回転数 毎分1,850

3 事実の経過
 第九十三大島丸(以下「大島丸」という。)は、平成5年4月に進水した、養殖漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LAH−ST型と称するディーゼル機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 大島丸は、長崎県田平港ではまち養殖用の餌を積み込み、同県大島港内のいけすに給餌する業務に従事しており、航海は両港間の往復のみで、片道の所要時間が約50分、月間の主機運転時間が約150時間で、主機燃料としてA重油を使用していた。
 主機は、各シリンダに船首側を1番とする順番号が付され、ピストンはアルミ合金製で、シリンダライナ下方のピストン冷却ノズルから噴射される潤滑油によって冷却されるもので、ピストン冷却ノズルの噴射口は直径2.6ミリメートルであった。
 主機の潤滑油は、クランク室底部に約70リットル入れられ、直結の潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の各機器については潤滑油を省略する。)で吸引・加圧され、こし器、冷却器を通ったのち主管に至り、主管から一部が圧力調整弁を経て油だまりに戻って主管の圧力が4.5ないし5.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に保たれ、主管から各シリンダの主軸受やピストン冷却ノズルに分岐して各部を潤滑及び冷却したのち油だまりに戻って循環するようになっていて、主管の圧力が1.0キロに低下すると圧力低下警報装置が作動するようになっていた。
 こし器は、エレメントがろ過精度15ミクロンの紙製で、目詰まりして入口及び出口の差圧が2.0キロになると警報が作動し、さらに同差圧が増加して6.0キロになるとバイパス弁が開くようになっていた。
 A受審人は、平成7年4月船長として乗船し、機関の責任者も兼ねていたもので、主機の取扱いにあたっては、機関室に掲示されていた整備基準を踏襲し、業者や船主とも相談のうえ、開放整備を翌8年1月に、潤滑油の取替えを1,000時間以内に、こし器エレメントの取替えは500時間を目安に実施していた。
 主機は、これまで運転中、こし器の目詰まり警報や潤滑油圧力低下警報が作動することがなかったが、同12年12月中旬ないし下旬ごろ、何らかの理由で6番シリンダのピストン冷却ノズル内が異物で閉塞した。
 こうして大島丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、船首尾とも1メートルの喫水で、同月22日10時40分田平港を発し、大島港に向け主機回転数毎分1,800の全速力で長崎県平戸島北東部沿岸を航行中、6番シリンダのピストンが過熱膨張してシリンダライナに焼き付き、連接棒がピストン及びシリンダブロックを突き破り、11時00分広瀬灯台から真方位352度1.6海里の地点において、主機が大異音を発した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 船橋で操船中のA受審人は、直ちに機関室に赴いて主機を停止し、シリンダブロックの破損を認めた。
 損傷の結果、大島丸は航行不能となり、僚船にえい航されて大島港に引き付けられ、のち損傷部が新替え修理された。

(原因の考察)
 ピストン冷却ノズルが閉塞した経緯について、以下の証拠が互いに矛盾するところがある。
(1)F部長の回答書中、「潤滑油管理の悪い状態が長時間続くと、スラッジ等の生成物が徐々にたい積し、冷却ノズルが詰まることも考えられる。また、こし器の目詰まりにより差圧が2.0キロで警報が作動し、6.0キロでバイパス弁が啓開するまで相当の時間があるが、その間処置をしないで目詰まりがひどくなり、バイパス弁が啓開するとスラッジの混入が考えられる。」旨の記載
(2)G代表取締役の回答書中、「6番シリンダ以外のピストン冷却ノズルに異状は見られなかった。」旨の記載
(3)A受審人に対する質問調書中、「乗船以来こし器が目詰まりして警報が作動したことはない。本件前にも警報は作動していない。餌積込み中と、本件発生の10分ぐらい前に機関室を点検したが異状には気付かなかった。」旨の供述記載
(4)A受審人の当廷における、「ピストン冷却ノズルに詰まっていたものは金属のようなものであった。他シリンダのピストン冷却ノズルにはスラッジがたい積した兆候はなかった。」旨の供述
 すなわち、潤滑油の汚損・劣化物が次第にたい積したものであれば、他シリンダのピストン冷却ノズルその他配管系統に同様の傾向が見られるはずであり、一方、大きな硬い異物が流入したものであれば、こし器バイパス弁が開いた状態でなければならず、いずれかを特定する証拠が得られないのでその経緯を合理的に説明することができない。

(原因)
 本件機関損傷は、主機運転中、ピストン冷却ノズルが閉塞し、ピストンが過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は、ピストン冷却ノズル閉塞の経緯が不明であるので、原因とのかかわりを明らかにすることができない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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