(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月10日03時00分
長崎県志多賀漁港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第28こうせい丸 |
総トン数 |
12トン |
登録長 |
14.94メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット |
回転数 |
毎分1,800 |
3 事実の経過
第28こうせい丸(以下「こうせい丸」という。)は、昭和61年3月に進水し、中型まき網漁業に灯船兼運搬船として従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LAAK−UT形と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置、計器盤及び警報盤を備えていた。
主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、6番シリンダヘッドの船尾側に冷却器を内蔵した清水タンクが配置され、動力取出軸で集魚灯用の発電機(以下「集魚灯用発電機」という。)を駆動できるようになっていた。
主機のシリンダヘッドは、一体形のシリンダブロックに挿入された各シリンダライナの上に、4箇所の冷却水通路が設けられたヘッドガスケットを間に挟んだうえ、ねじの呼び径が20ミリメートル(以下「ミリ」という。)のヘッドボルト6本及び同呼び径が16ミリの同ボルト1本により、それぞれ締め付けられており、シリンダヘッド上部がヘッドカバーで密閉されていた。
また、主機の冷却は間接冷却方式で、その清水系統は、容量約47リットルの清水タンクから直結の冷却清水ポンプにより吸引して加圧された清水が入口主管に入り、各シリンダライナから前示ヘッドガスケットの冷却水通路を経てシリンダヘッドに導かれ、各部を冷却したのち、温度調整弁を経由して同タンクに戻るようになっており、同系統には、清水温度が摂氏95度以上に上昇したとき作動する警報装置が備えられていた。
ところで、こうせい丸は、平成11年12月ごろ現所有者により中古船として購入されたもので、購入後、船体のペイント塗装などの整備は施行されたものの、整備歴の不明な主機は整備されなかったことから、3番シリンダのヘッドボルトの締付力が低下し、清水がヘッドガスケットの右舷側冷却水通路から外部に漏洩する状況となっていた。
A受審人は、翌12年2月からこうせい丸に船長として乗船し、主機の取扱いにも当たり、始動前に油だめの油量、清水タンクの水量及び機関室ビルジの各点検を行っていたが、主機の使用を開始したところ、清水タンクの水量が減少することに気付き、その後、4日ないし6日ごとに約1リットル補給するようになったことから、清水が漏洩していることを懸念したが、補給さえしておけば大事に至ることはないものと思い、冷却清水系統の漏水点検を十分に行うことなく、3番シリンダのヘッドガスケットからの漏水に気付かず、同様の補給間隔のまま、同年4月8日出港前の16時ごろ清水タンクに約1リットルを最後に補給し、主機の運転を続けた。
こうして、こうせい丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、あじ、さば漁の目的で、4月9日16時00分長崎県比田勝港を発し、対馬東方沖合の漁場に至り、僚船とともに操業に従事し、翌10日02時ごろ同県志多賀漁港東方沖合で主機を回転数毎分800にかけ、集魚灯用発電機を駆動して漁獲物の積込み中、3番シリンダのヘッドガスケットからの漏水量が増加し、積込みを終えてクラッチを前進に入れ、主機を回転数毎分1,000に増速して比田勝港に向け帰港中、冷却清水が不足して主機が過熱し、同時58分ごろ主機警報盤の警報が発せられたが、これに気付いたA受審人が警報の種類を確認しないまま、僚船に異状を連絡していたとき、ピストンとシリンダライナに焼付きを生じ、03時00分琴埼灯台から真方位164度5.0海里の地点において、主機が自然に停止した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機が停止したので機関室へ赴き、異臭と熱気が立ちこめており、損傷箇所が分からなかったことから航行不能と判断し、僚船に援助を要請した。
こうせい丸は、僚船に曳航(えいこう)されて比田勝港に帰港し、のち長崎県上県郡芦見港へ回航され、主機を開放した結果、3番シリンダのヘッドボルトの締付力が低下しており、全数のピストンとシリンダライナに縦傷を、1番及び3番シリンダのピストンピンに焼付きをそれぞれ生じていることが判明し、のちそれらの損傷部が取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、主機付冷却清水タンクへの清水補給を頻繁に行うようになった際、冷却清水系統の漏水点検が不十分で、シリンダヘッドガスケットから漏水したまま運転が続けられ、冷却清水量が不足して主機が過熱されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、中古船として購入され、整備歴の不明な主機の使用を開始したところ、主機付冷却清水タンクへの補給を頻繁に行うようになった場合、冷却清水が系統から外部に漏洩しているおそれがあったから、同清水系統の漏水点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、補給さえしておけば大事に至ることはないものと思い、同清水系統の漏水点検を十分に行わなかった職務上の過失により、3番シリンダのヘッドガスケットからの漏水に気付かないまま運転を続け、同清水量の不足により主機を過熱させる事態を招き、ピストン、シリンダライナ及びピストンピンなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。