(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月15日18時00分
鳥島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船漁秀丸 |
総トン数 |
49.98トン |
登録長 |
18.59メートル |
主機の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
補機の種類 |
4サイクル・3シリンダディーゼル機関 |
出力 |
51キロワット |
回転数 |
毎分1,200 |
3 事実の経過
漁秀丸は、昭和52年に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、発電機駆動の補機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した3KDL型と呼称するディーゼル機関2基を装備していた。
機関室には、下段中央に主機を、その船首側に補機2基を両舷に配置し(以下、左舷側を1号補機、右舷側を2号補機という。)、また、中段に主配電盤、冷凍圧縮機、ブライン冷却器等をそれぞれ配置していた。
補機は、海水による直接冷却方式の機関で、船尾側からシリンダ番号が付され、交流発電機と共通の台板に据え付けられていた。
補機のシリンダヘッドは、2弁式で、燃焼室側から上面に貫通する弁案内に排気弁及び吸気弁の弁棒がそれぞれ挿入され、上面で弁ばねが装着されたうえ、両弁を押し下げる弁腕装置が取り付けられ、運転中には弁腕装置の潤滑油が飛散しないよう、シリンダヘッドカバーがかぶせられていた。
ところで、2号補機の排気弁は、弁ばね、ばね受及びコッタが就航以来使用されており、コッタの摩耗が進行して弁棒とばね受の保持に支障をきたすおそれのあるものもあった。
A受審人は、昭和54年に漁秀丸が購入されたときから機関員として乗船し、同60年以降は機関長として機関の整備と運転に携わり、補機の定期整備に当たっては毎年8月の入渠時に、自らシリンダヘッドを開放し、排気弁及び吸気弁の摺合せ整備を行っており、平成11年8月の入渠時に2号補機の開放整備を行った際、摩耗の明らかな2本の吸気弁を取り替えたが、弁ばね、ばね受及びコッタについては毎回そのまま使っていたので問題ないと思い、排気弁のコッタが摩耗していないか点検することなく、摩耗が進んだコッタを取り替えないまま、排気弁をシリンダヘッドに組み立てた。
2号補機は、シリンダヘッドの整備を終えたあと引き続き運転されるうち、3番シリンダの排気弁のコッタの摩耗が更に進むところとなった。
こうして漁秀丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、船首1.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成12年5月13日15時20分和歌山県勝浦港を出港し、鳥島付近の漁場に向かっていたところ、船内に給電していた2号補機の3番シリンダの排気弁の弁棒がばね受から抜け、同月15日18時00分北緯29度32分東経141度45分の地点において、燃焼室側に落下した排気弁がピストンに叩かれ、同機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹いていた。
A受審人は、ただちに2号補機を停止し、シリンダヘッドカバーを開けて点検したところ、3番シリンダの弁腕装置のロッカーアーム及びプッシュロッドが曲がり、排気弁ばね、ばね受及びコッタがばらばらに飛散しており、更にシリンダヘッドが破損して冷却海水がクランクケースに入っているのを認め、同機が運転不能であることを船長に報告した。
漁秀丸は、操業を断念して勝浦港に帰港し、2号補機が精査された結果、折れた3番シリンダの排気弁がシリンダヘッドの燃焼室側を破損させているのが分かり、のち損傷したピストン、シリンダヘッド、弁腕装置等が取替修理された。
(原因)
本件機関損傷は、入渠時に補機の開放整備が行われた際、排気弁のコッタの点検が不十分で、摩耗したコッタが取り替えられないまま組み立てられ、運転中に排気弁の弁棒がばね受から抜けたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、入渠時に補機の開放整備を行う場合、排気弁の弁棒とばね受を止めるコッタが就航以来取り替えられておらず、摩耗しているおそれがあったから、コッタを点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、毎回そのまま使っていたので問題ないと思い、コッタを点検しなかった職務上の過失により、3番シリンダの排気弁のコッタが摩耗していることに気付かず、取り替えないままシリンダヘッドに組み立てて運転を続け、コッタが更に摩耗して排気弁の弁棒がばね受から抜ける事態を招き、落下した排気弁がピストンに叩かれてピストン、シリンダヘッド、弁腕装置等を損傷させるに至った。