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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年横審第4号
件名

貨物船北伸丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年10月11日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、花原敏朗、甲斐賢一郎)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:北伸丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
過給機のタービン入口ケースに亀裂

原因
主機始動後の冷却海水圧力確認不十分

主文

 本件機関損傷は、主機始動後の冷却海水圧力の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月27日06時40分
 千葉港市原航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船北伸丸
総トン数 283トン
登録長 44.08メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 514キロワット
回転数毎分 350

3 事実の経過
 北伸丸は、昭和59年12月に進水した、北海道苫小牧港と千葉港間において液体塩素の輸送に従事する貨物船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した、6LU24G型と呼称するディーゼル機関と逆転機を装備していた。
 主機は、本体及び過給機を清水で冷却し、冷却清水、潤滑油及び給気を海水で冷却する間接冷却方式のもので、冷却清水を循環させる冷却水ポンプを動力取出軸に掛けられたベルトで駆動しており、潤滑油圧力、冷却水温度、逆転機作動油圧力などの警報装置が機関室及び船橋の機関操作盤に設置されていた。
 過給機は、株式会社新潟鐵工所が製造したNHP20AL型と称する排気タービン過給機で、軸流タービンの周囲をタービン入口ケースとタービン出口ケースが囲み、両ケースに冷却ジャケットを有しており、主機の各シリンダからの排気が上下2本の排気集合管でタービン入口ケースに導入されていた。
 主機の冷却水系統は、冷却水ポンプで加圧された冷却清水が冷却器を経て右舷側の入口集合管からシリンダジャケットと過給機の冷却ジャケットとに分岐し、シリンダジャケットに続いてシリンダヘッドを冷却したものと過給機を出たものとが再び出口集合管で集合し、一部が空気抜きのために冷却水戻り管で冷却水膨張タンクに送られるほかは冷却水ポンプ吸込部に戻るようになっていた。また、出口集合管には温度センサーが取り付けられ、摂氏75度以上で閉じる接点が警報装置の回路に接続されていた。
 冷却海水ポンプは、電動機で駆動される遠心式ポンプで、船底弁からこし器を経て吸い込んだ海水を、主機の清水冷却器、潤滑油冷却器及び空気冷却器並びに逆転機潤滑油冷却器に送るもので、配電盤上の始動器とポンプ横の始動押ボタンのいずれでも始動できるようになっており、ポンプ横と主機ハンドル前の2箇所に吐出圧力計を備えていた。
 北伸丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、液体塩素300トンを積載し、船首2.6メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成12年1月24日16時05分苫小牧港を発し、同月26日23時50分千葉港外の袖ヶ浦沖合に仮泊した。
 A受審人は、翌27日05時40分抜錨準備のため機関室に入って主機の始動準備にかかり、中段の配電盤にあるポンプ類の電源を入れたのち、下段に降りて補助潤滑油ポンプを始動し、続いて動弁装置などに注油したあと主機を始動して中立回転としたが、いつもの手順で作業を済ませたと思い、主機の冷却系統が正常に用意できているか、主機ハンドル前の圧力計の示度を見て冷却海水圧力を確認することなく、冷却海水ポンプを始動しないまま、始動空気の手仕舞いをしたあとただちに機関室を離れ、船尾甲板の入港配置に就いた。
 こうして北伸丸は、冬季であったことから、前夜の主機停止後、極めて低くなっていた主機の冷却水温度が、中立回転で運転されて緩やかに上昇するなかを06時00分抜錨し、主機を335回転にかけて千葉港千葉区第4区旭硝子岸壁に向かい、その後主機出口の冷却水温度が適正値に達したが、冷却海水ポンプが運転されていなかったので更に上昇が続き、同港市原航路を進むうち、同温度が警報設定値を超えて機関室及び船橋の機関警報装置で主機冷却水温度警報が吹鳴した。まもなく、船橋で操船中の船長が同警報に気付いて主機を225回転まで減速したが、航路内であったので運転が続けられるうち、過給機のタービン入口ケースの一部に衰耗が生じていたものか熱疲労から亀裂を生じ、06時40分千葉港五井防波堤灯台から真方位090度420メートルの地点で、機関室の警報音を微かに聞いて機関室に入ったA受審人が、主機シリンダヘッド出口の冷却水温度が摂氏100度を超え、過給機のタービン入口ケースと下部排気集合管との継手に生じていた微細な破孔部から、蒸気が噴出しているのを発見した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹いていた。
 A受審人は、冷却水膨張タンクへの冷却水戻り管から蒸気が噴出しているのを認めて、冷却海水ポンプが運転されていないことに気付き、船橋に連絡して主機を停止したい旨連絡した。
 北伸丸は、市原航路の東端部から防波堤内側に入って投錨したが、運転不能となって引船で旭硝子岸壁に引き付けられ、精査の結果、過給機のタービン入口ケースに亀裂を生じているのが分かり、のち損傷した同ケースが取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、抜錨準備をするに当たり、間接冷却方式の主機を始動して中立回転とした際、冷却海水圧力の確認が不十分で、冷却海水ポンプが始動されないまま主機の運転が続けられ、過給機が過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、抜錨準備をするに当たり、主機を始動して中立回転とした場合、その後ただちに船尾甲板での作業のために機関室を無人にするのであるから、主機の冷却系統が正常に用意できているか、主機ハンドル前の圧力計で冷却海水圧力を確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、いつもの手順で作業を済ませたと思い、冷却海水圧力を確認しなかった職務上の過失により、冷却海水ポンプを始動しないまま主機の運転を続け、過給機が過熱する事態を招き、タービン入口ケースに亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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