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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 火災事件一覧 >  事件





平成12年那審第42号
件名

プレジャーボートサンダンスエミリ2火災事件
二審請求者〔理事官 上原 直〕

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年10月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直、長浜義昭

受審人
A 職名:サンダンスエミリ2船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:サンダンスエミリ2管理人

損害
機関室照明用及び主機始動用等の配線が焼損

原因
原因不明

主文

 本件火災は、機関室照明用の電気配線が発火したことによって発生したものであるが、発火原因を明らかにすることができない。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月22日15時35分
 沖縄県渡嘉敷島北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートサンダンスエミリ2
総トン数 13トン
全長 15.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 786キロワット

3 事実の経過
 サンダンスエミリ2(以下「サンダンス」という。)は、昭和61年3月に進水した2基2軸のFRP製プレジャーボートで、甲板上の船体中央部に操舵室などの上部構造物が配置され、同構造物の上に最上船橋甲板が設けられており、甲板下には船首方から順に船室、機関室、生簀(いけす)、舵機庫などが配置されていた。また、船室の右舷船尾方にレーダー、魚群探知機、配電盤、スイッチ、ヒューズなどを格納する配電室が設けられていた。
 機関室には、両舷側に沿って燃料油タンク、中央に並んでV型機関である2基の主機、船尾側に5個の蓄電池などが配置され、船首側に1個、船尾側に2個の天井灯が取り付けられ、主機のろ紙式空気吸入フィルタ付近に外気が送風されるよう、操舵室の船尾側ドアを出た両舷端に送風機がそれぞれ取り付けられていた。
 機関室の出入口は、船首及び船尾側にそれぞれ1箇所ずつ設けられ、船尾側の出入口は船首方を支点にして開口するハッチで、開けると自動的にロックされるようになっていた。
 機関室の電気配線は、直流24ボルトの蓄電池から給電される主機始動用、補機始動用、照明用の配線と交流100ボルトで発電機から給電される空調機用、充電器用などの配線が天井の縦材及び壁面を利用して部分的には縦材などと接触する形で取り付けられ、数本の電路ごとに適当な間隔でプラスチック製のバンドで束ねられており、左舷側主機の左舷側シリンダ列上の天井には、機関室照明用及び主機始動用の系統で使用されていない配線の2本が束ねて取り付けられていた。
 ところで、サンダンスは、平成11年6月A受審人が代表取締役である株式会社情報サービスに購入されたとき、最上船橋甲板の新設、機関室天井のチーク材からFRPへの材質変更、前示送風機の新設などの改造が行われていたが、復旧の際に同天井に断熱材を施しておらずFRPが剥き出しの状態となっていた。
 B指定海難関係人は、同年7月配電室及び機関室の配線が乱雑になっていたことから、束ねるなどの整理を行い、配線図を作成した。
 A受審人は、同年12月航海中に電線の絶縁被覆が焼けているような異臭を認めたことから、B指定海難関係人に電気配線の点検を行うよう指示した。
 B指定海難関係人は、A受審人の指示を受け、電気配線の目視による点検、導通点検、各端子の増締めなどを行ったものの異状がなかったことから、レーダー、魚群探知機などを格納している配電室が密閉状態であり、各機器の運転時の発熱による異臭ではないかと判断し、翌年1月同室に換気扇を取り付け、その結果、明確な異臭が生じないようになった。
 こうして、サンダンスは、A受審人が単独で乗り組み、平成12年4月22日14時55分那覇新港船だまりを発し、機関室照明用のスイッチなどを入れたまま、トローリングの目的で渡嘉敷島北方沖合に向い、主機を回転数毎分1,900にかけて航行中、左舷側主機の左舷側シリンダ列上の天井に配線された機関室照明用配線の絶縁被覆が過熱されて発火し、プラスチック製のバンドが溶断して同配線が垂れ下って左舷側主機の空気吸入フィルタに接触したことから、同フィルタに引火するとともに天井のFRP、送風機のプラスチック製回転翼などが焼損した。
 A受審人は、主機の回転数が低下したことに気付き、主機の状況を確認するために停止回転として水温計及び回転計を見ようと船首方を見たとき船室から黒煙が出ているのを認め、機関室船尾側ハッチを開口したところ、同日15時35分端島灯台から真方位000度7.0海里の地点において機関室内に火災による黒煙が充満していることを認めた。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、主機及び送風機を停止して僚船などに救助を求めたのち、機関室内に海水を放水するなど消火作業に当たり、火災は間もなく鎮火した。
 サンダンスは、僚船に曳航されて那覇新港船だまりに引き付けられ、精査の結果、主機の排気管などに異状が認められず、機関室照明用及び主機始動用の系統で使用されていない配線が激しく焼損して同配線の両ヒューズが溶断していることが判明し、のち焼損した配線、送風機、主機空気吸入フィルタ、機関室天井などが修理され、同天井には断熱工事が施された。

(原因に対する考察)
 本件は、機関室照明用の電気配線が発火し、火災が発生したものであるが、発火原因について、以下に考察する。
1 発火源
 鎮火後の機関室の写真から、激しく燃焼しているのは、左舷側主機の空気吸入フィルタ、左舷側機関室送風機、左舷側主機上部のFRP製天井及び機関室照明用の電気配線である。
 空気吸入フィルタ及びFRP製天井が自然発火したと考えるには無理があり、A受審人に対する質問調書から、送風機は右舷側が運転されていたと認められることから、停止中の左舷側機関室送風機が発火源になるとは考えられない。
 ところで、主機の側面、左舷側燃料油タンクの側面及び機関室床面は、清浄で燃料油、潤滑油、煤などの付着もないことから、主機の上面より高い位置に発火源が存在したと認められる。
 同位置には、機関室照明用の電気配線が敷設されており、同配線の燃焼模様、同配線のスイッチが投入されていたこと及び鎮火後に同配線のヒューズが溶断していたことから、同配線が発火源であることは十分に考えられる。
2 発火原因
 電気配線の過熱は、接触抵抗の増加、許容値以上の負荷、絶縁破壊による短絡など各種の原因によって生じる。
 B指定海難関係人は、当廷において、機関室天井の電気配線は古く、折り目が付いていたりしていたと供述し、一部の素線が断線して半断線部が過熱して発火したことをうかがわせるが、断線していた確証はなく、絶縁抵抗の低下などで過電流が流れてジュール熱で配線が経年劣化し、ビニール被覆が徐々に炭化して発火に至った可能性などもあり、発火原因についての確証を得ることができない。
 以上、発火原因について考察したが、機関室照明用の電気配線が発火に至った原因を特定することができず、したがって本件火災の発火原因を明らかにすることはできない。

(原因)
 本件火災は、沖縄県渡嘉敷島北東方沖合を航行中、機関室照明用の電気配線が発火したことによって発生したものであるが、発火原因を明らかにすることができない。

(受審人等の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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