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平成13年函審第31号
件名

漁船第二十五富丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年10月31日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、織戸孝治)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第二十五富丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第二十五富丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
安定器室のほか食堂、賄室、長船尾楼甲板及び船体後部外板等が焼損

原因
集魚灯用電気設備の保守管理不十分

主文

 本件火災は、集魚灯用電気設備の保守管理が不十分で、漏電により甲板上の予備品箱等の木部が著しく過熱して発火したことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月16日00時30分
 北海道襟裳岬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十五富丸
総トン数 99.88トン
登録長 30.19メートル
6.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 544キロワット

3 事実の経過
 第二十五富丸(以下「富丸」という。)は、昭和47年11月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する、長船尾楼付一層甲板型鋼製漁船で、長船尾楼上部に船橋、同楼の上甲板上に前方から順に凍結室、倉庫、食堂、賄室、集魚灯用安定器室(以下「安定器室」という。)、上甲板下に3区画の魚倉、機関室及び船員室等が配置され、船体上方に集魚灯が装備されていた。安定器室は、長さ幅共に6.1メートル、高さ1.9メートルで、前壁左舷側及び中央部左舷寄りに出入口があり、上甲板上に木製敷板が取付けボルトで固定され、集魚灯用電気設備として、船首側にディーゼル機関駆動の電圧220ボルト容量330キロボルトアンペア3相交流発電機、右舷側に発電機盤及び電磁接触器盤、左舷側及び船尾側中央部の敷板に設けられた鋼製棚に合計59個の集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)が設置されており、中央部に作業台、船尾側中央部の棚と右舷外板との間の敷板に機関の木製予備品箱、同箱上に乗組員私物の段ボール箱が置かれていた。
 安定器は、電圧220ボルト出力2キロワット放電管2灯用の箱型のもので、単巻変圧器、チョークコイル及びコンデンサ等を内蔵し、外側に装着された電路の電源側端子及び集魚灯側端子には、電磁接触器盤から導かれた金属シースケーブル及び集魚灯に至るキャブタイヤケーブルがそれぞれ接続されていた。また、発電機盤は、アースランプが装備されていて、スイッチの操作で電路の絶縁抵抗の低下を検知できるようになっていた。
 ところで、安定器室は、船尾側中央部の安定器上方に乗組員がぬれた作業衣類等を勝手に干していたので、同衣類等から滴下する海水が棚や安定器端子等に掛かり敷板に滞留し、電路の絶縁抵抗の低下を来す状況になっていた。
 B受審人は、平成11年5月に富丸の機関長として乗り組み、機関のほか集魚灯用電気設備の運転保守にあたり、安定器上方に作業衣類等が干してあったものの、乗組員が嫌がると思い、これをやめさせておらず、翌12年3月から5月までの休漁期間を利用して機関等を整備し、同月上旬にアースランプで電路の絶縁抵抗のわずかな低下を検知したが、地絡による無線障害が生じていないから大丈夫と思い、そのまま集魚灯を点灯することとした。
 ところが、富丸は、操業が再開された後、島根県隠岐諸島沖から北海道沖にかけての日本海、北海道沖の太平洋に漁場を移動し、集魚灯の点灯が続けられているうち、安定器室の船尾側中央部で棚や安定器端子等の海水の付着により電路の絶縁抵抗が低下し、同端子から棚、予備品箱、敷板、取付けボルト等を介し上甲板に至る導電路が形成されて漏電し、同箱及び敷板の木部が発熱し次第に炭化していた。
 しかし、B受審人は、操業中には日没時に集魚灯用発電機を運転し集魚灯を点灯していたが、依然、安定器上方に作業衣類等を干すことをやめさせるとか、アースランプで電路の絶縁状態を確認するとか集魚灯用電気設備の保守管理を十分に行うことなく、電路の絶縁抵抗が低下している状況に気付かなかった。
 A受審人は、平成11年5月に富丸の船長として乗り組み、当初から安定器上方に作業衣類等が干してあったが、これについてB受審人の申入れ等を受けておらず、また、無線通信の際に雑音の障害が生じる都度、業者に依頼して電路に発生した地絡箇所などを修理する措置をとっていた。
 こうして、富丸は、A及びB両受審人ほか5人が乗り組み、船首1.7メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同12年9月22日00時30分青森県大畑漁港を発し、襟裳岬東方沖合の漁場に至り、集魚灯を点灯して漂泊したまま操業中、安定器室の船尾側中央部で電路の漏電により予備品箱等の炭化した木部が著しく過熱して発火し、段ボール箱に燃え移り、翌10月16日00時30分襟裳岬灯台から真方位102度80海里の地点において、甲板作業中の乗組員が同室の出入口から漏れた煙に気付いて火災を発見した。
 当時、天候は晴で風力5の西北西風が吹き、海上には白波があった。
 富丸は、B受審人が自室で休息中に火災の連絡を受け安定器室に急行して集魚灯用発電機を停止し、持運び式消火器による初期消火が行われたものの煙に阻まれて効なく、同室の密閉消火の措置がとられ鎮火した後、来援した海上保安部の巡視船により北海道十勝港に曳航された。
 火災の結果、富丸は、安定器室のほか食堂、賄室、長船尾楼甲板及び船体後部外板等が焼損し、船橋の航海計器、通信機、漁労設備等がばい煙の付着により絶縁不良となったが、のち修理された。

(原因)
 本件火災は、集魚灯用電気設備の保守管理が不十分で、電路の絶縁抵抗が低下する状況のまま集魚灯の点灯が続けられ、安定器端子から予備品箱等の木部を介し上甲板に至る導電路が形成されて漏電し、同木部が炭化し著しく過熱して発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、操業中に集魚灯用発電機を運転して集魚灯を点灯する場合、安定器室の安定器上方にぬれた作業衣類等が干してあったから、電路が漏電しないよう、同衣類等を干すことをやめさせるとか、アースランプで電路の絶縁状態を確認するとか集魚灯用電気設備の保守管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、乗組員が嫌がると思い、作業衣類等を干すことをやめさせなかったばかりか、地絡による無線障害が生じていないから大丈夫と思い、アースランプで電路の絶縁状態を確認せず、集魚灯用電気設備の保守管理を十分に行わなかった職務上の過失により、同衣類等からの海水の滴下により電路の絶縁抵抗が低下する状況のまま集魚灯の点灯を続け、安定器端子から予備品箱等の木部を介し上甲板に至る導電路が形成されて漏電し、同木部が炭化し著しく過熱して発火する事態を招き、火災を発生させ安定器室のほか食堂、賄室、長船尾楼甲板及び船体後部外板等を焼損させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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