(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月13日01時00分
北海道知床半島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八宮丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
21.70メートル |
幅 |
4.09メートル |
深さ |
1.54メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第八宮丸(以下「宮丸」という。)は、昭和61年11月に進水した、刺網漁業に従事する一層甲板型鋼製漁船で、船体中央部に操舵室、同室後部の上甲板上に食堂、上甲板下に前方から順に3区画の魚倉、機関室及び船員室がそれぞれ配置されていた。食堂は、長さ2.1メートル幅1.6メートル高さ1.5メートルで、前後両壁左舷側に出入口、後部右舷側に船員室と連絡する昇降口があり、左右舷両側壁、前後両壁及び天井に合板が内張りされ、前壁と両側壁に沿って鋼製長いす、ほぼ中央部の床に台が置かれ、同台上には専ら暖房用として使われる電熱器が設置されていた。
A受審人は、平成12年9月宮丸に船長として乗り組み、操船のほか機関や船内電気設備の運転保守にあたり、北海道知床半島北方沖合の漁場で、きちじ刺網漁の操業を繰り返していた。
ところで、電熱器は、3相交流電圧220ボルト電力容量4.5キロワットのもので、3心軟銅線をゴム絶縁体で被覆したキャブタイヤコード(以下「電源コード」という。)のプラグが、食堂の長いす上方の右舷側壁中央部に取り付けられたレセプタクルに差し込まれ、これに後壁の分電盤の配線用遮断器から導かれた電線が接続され、平素、同遮断器が入れられたまま、主機の運転の際には同機駆動発電機から常時通電されていた。また、電源コードは、同レセプタクルから船横方向に長さ1.5メートルにわたり長いす、床上に露出して配線されていたが、長期間使用されているうち同いすの角部に当たって折れ曲がり、その箇所で心線の一部が断線し始め、通電の際に発熱する状況となっていた。
しかし、A受審人は、乗船当初から電源コードが長いす上に露出していたものの、電熱器を使用する際、外見から特に支障ないと思い、操業の合間に適宜同コードの折れ曲がり箇所に触手するなどして通電状態を点検しなかったので、前示発熱する状況に気付かなかった。
こうして、宮丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同年11月12日23時00分北海道宇登呂漁港を発し、同人が単独で操船して知床半島北方沖合の漁場に向かい、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で航行し、食堂の電熱器に通電中、電源コードの折れ曲がり箇所で過熱した心線が短絡して被覆が発火し、右舷側壁の合板に燃え移り、翌13日01時00分知床岬灯台から真方位356度3.5海里の地点において、船員室で休息していた乗組員5人のうち1人が異臭に気付いて火災を発見した。
当時、天候は晴で風がなく、海上は穏やかであった。
宮丸は、A受審人が火災を知って持運び式消火器等による消火活動を行い、01時30分に鎮火した後、自力で宇登呂漁港に引き返した。
火災の結果、宮丸は、食堂、分電盤及び電線等が焼損したが修理され、また、乗組員が船員室から避難する際に熱傷を負った。
(原因)
本件火災は、電熱器電源コードの通電状態の点検が不十分で、同コードの心線の一部が断線したまま使用され過熱して短絡し、被覆が発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、船内電気設備の運転保守にあたり、食堂の電熱器を使用する場合、同器電源コードの心線の一部が断線することがあるから、発熱等の異状が察知できるよう、操業の合間に適宜同コードの折れ曲がり箇所に触手するなどして通電状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、外見から特に支障ないと思い、同コードの折れ曲がり箇所に触手するなどして通電状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、同箇所で心線の一部が断線して発熱する状況に気付かず、過熱した同線が短絡して被覆が発火する事態を招き、側壁の合板に燃え移り、食堂、分電盤及び電線等を焼損させるに至った。