(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月10日12時30分
徳島県撫養港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートミッキーIII |
全長 |
7.87メートル |
幅 |
2.38メートル |
深さ |
0.22メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
36キロワット |
3 事実の経過
ミッキーIIIは、FRP製プレジャーボートで、A受審人が単独で乗り組み、救命胴衣を着用していない同乗者2人を乗せ、船首尾0.2メートルの等喫水をもって、周遊の目的で、平成12年9月10日12時00分徳島県旧吉野川河口から4キロメートル上流の定係地を発し、撫養ノ瀬戸経由で同県内海へ向かった。
A受審人は、自ら操舵操船に当たって旧吉野川を下航し、12時10分粟津港南防波堤灯台から057度(真方位、以下同じ。)300メートルの地点で、針路を025度に定め、9.6ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
ところで、撫養ノ瀬戸東口の南側にあたる大磯埼の外縁付近は、水深が徐々に浅くなっていて、沖合からうねりが打ち寄せると、いそ波が発生しやすい海域であった。また、A受審人は、沖縄に台風が接近している旨の情報を得ていて、その影響によるうねりに注意しながら航行することとしていた。
12時24分半A受審人は、大磯埼灯台から100度500メートルの地点に差し掛かったが、この程度のうねりは大丈夫と思い、撫養ノ瀬戸から大磯埼北方にかけての海域が台風に起因する波高2メートル前後の東方からのうねりにより、いそ波が高起している状況であったから、同状況がわかるよう、海面模様を観測するなど、いそ波の危険性に対する配慮を十分に行うことなく、同時25分大磯埼灯台から085度550メートルの地点で、対地速力を7.2ノットに減じて徐々に左回頭を開始した。
こうして、A受審人は、12時30分わずか前撫養ノ瀬戸東口ほぼ中央に向かう255度の針路としたころ、右舷後方から打ち寄せるいそ波で船体の動揺が大きくなり、12時30分大磯埼灯台から350度720メートルの地点において、ミッキーIIIは、波高4メートルに高起したいそ波を右舷後方に受けて左大傾斜し、復原力を喪失して転覆した。
当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、沖縄の東方海上には、中心気圧930ヘクトパスカルの大型で強い勢力の台風14号が北上中で、徳島地方気象台から徳島県全域に波浪注意報が発表されていた。
転覆の結果、撫養ノ瀬戸東口付近の海岸に打ち上げられて大破し、全損となった。また、海中に投げ出された同乗者T(昭和40年3月21日生)が溺死し、同Kが頸部捻挫等を負った。
(原因)
本件転覆は、徳島県撫養港において、大磯埼東方沖合を周遊の目的で北上中、大磯埼灯台東方沖に差し掛かった際、いそ波の危険性に対する配慮が不十分で、撫養ノ瀬戸に向け左回頭を開始し、高起したいそ波を右舷後方から受けて左大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、徳島県大磯埼東方沖合を周遊の目的で北上中、大磯埼灯台東方沖に差し掛かった場合、撫養ノ瀬戸から大磯埼北方にかけての海域が台風に起因する東方からのうねりにより、いそ波が高起している状況であったから、同状況がわかるよう、海面模様を観測するなど、いそ波の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度のうねりは大丈夫と思い、いそ波の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、撫養ノ瀬戸に向け左回頭を開始し、高起したいそ波を右舷後方から受けて左大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、ミッキーIIIを大破させ、同乗者1人を死亡及び同1人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。