(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月13日08時00分
兵庫県姫路港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートユリシーズ |
全長 |
3.65メートル |
幅 |
1.28メートル |
深さ |
0.60メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
2キロワット |
3 事実の経過
ユリシーズは、定員3人の船外機を備えたポリプロピレン製プレジャーボートで、A受審人が同船を乗用車に載せ、姫路八木港西防波堤灯台から343度(真方位、以下同じ。)220メートルの兵庫県八木港の海岸に運び、同受審人と同人の息子1人とが乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.05メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、平成12年5月13日06時00分前示海岸を発し、同港南方沖合の釣り場に向かった。
ところで、ユリシーズは、A受審人が同年3月に購入し、フリージアマクロス株式会社製のフリージアボートと称する、重量47キログラムの、軽量で喫水が浅い船型の折畳式携帯ボートで、折り畳まれた船体、横方向の補強を兼ねた前中後部の座席板、船外機取付用の補助板及び船首部の波除用カバーなどの部品で構成され、その船体を広げて部品を取り付けてから、魚釣りなどに使用されていた。
A受審人は、出航後、姫路LNG基地東方沖合、続いて妻鹿東防波堤東側水域で釣りを行ったのち、07時26分同基地南側水域に移動し、妻鹿東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から085度640メートルの釣り場で、錨泊して釣りを再開したが、釣果がなかったことから、妻鹿漁港南東方沖合に向かうこととし、同時56分少し前同釣り場を発進し、針路を079度に定め、機関を全速力前進より少し落として4.0ノットの対地速力とし、息子が前部座席の中央に、自らは後部座席の右舷側にそれぞれ腰掛け、左手で船外機の操縦ハンドルを操作して進行した。
07時59分A受審人は、東防波堤灯台から082.5度1,050メートルの地点に達したとき、姫路LNG基地南東端を回り込むため、ゆっくりと左転を開始し、そのころ右舷正横方に高速力で妻鹿漁港方面に向かう漁船を視認した。
A受審人は、07時59分半前示漁船が自船の近距離を追い越して右舷前方50メートルになり、漁船の引き起こした航走波が近づくのを認めたが、これぐらいの航走波であればこのまま進行しても大丈夫と思い、航走波に対し直角になるような操船を行うなど、航走波に対する配慮を十分に行うことなく、左転を続けた。
08時00分わずか前A受審人は、妻鹿漁港南東方沖合の釣り場に向く針路としたとき、右舷正横方から航走波が押し寄せ、船首方向と航走波がほぼ平行になり、最初の航走波を横揺れしながら乗り切ったものの、次の波面により船体が持ち上げられ、左舷側に大傾斜して復原力を喪失し、ユリシーズは、08時00分東防波堤灯台から079度1,140メートルの地点において、その船首が019度を向いて左舷側に転覆した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
転覆の結果、ユリシーズは、船外機に濡損を生じ、付近を航行中の漁船により妻鹿漁港に曳航され、A受審人とその息子は、同船に救助された。
(原因)
本件転覆は、姫路港東区第2区内を釣り場に向け航行中、自船を近距離で追い越した他船の航走波が近づいた際、航走波に対する配慮が不十分で、航走波とほぼ平行になって進行して左舷側に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、姫路港東区第2区内を釣り場に向け航行中、他船が自船を近距離で追い越し、その引き起こした航走波が近づくのを認めた場合、航走波とほぼ平行になって進行すると、小型で軽量の船体のうえ喫水が浅いので、大きな横傾斜を生じて転覆するおそれがあったから、航走波に対し直角になるような操船を行うなど、航走波に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これぐらいの航走波であればこのまま進行しても大丈夫と思い、航走波に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、左舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆する事態を招き、船外機に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。