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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 沈没事件一覧 >  事件





平成13年那審第30号
件名

引船第八幸栄丸沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成13年11月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(清重隆彦、金城隆支、平井 透)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第八幸栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第21幸栄号作業長 

損害
幸栄丸・・・海水が機関室に浸入し、沈没、全損

原因
気象・海象に対する配慮不十分

主文

 本件沈没は、気象、海象に対する配慮が不十分で、機関室出入口の閉鎖を行わなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月2日13時15分
 沖縄島辺戸岬南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 引船第八幸栄丸
総トン数 19トン
全長 13.44メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第八幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は、鋼製引船で、A受審人が1人で乗り組み、船首1.1メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、測量関係者等5人を乗せ、魚礁6基192トンを積載して船首尾とも1.2メートルの等喫水となった、長さ57メートルの起重機台船第21幸栄号(以下「台船」という。)を船尾に引き、魚礁設置の目的で、平成12年12月2日08時00分沖縄県辺土名漁港を発し、10時00分ごろ同港の北西方約10海里の地点に達し、魚礁の設置作業が開始されるまで台船を引いたまま付近で待機した。
 発航に先立って、B指定海難関係人は、電話により天気予報を入手し、波浪注意報が発表されていたことは知らなかったものの、北の風、風力3で波高1.5メートルから2.0メートルとの情報を得、付近の風速も毎秒6メートルぐらいと体感して魚礁の設置作業が可能であると判断した。
 ところで、魚礁を設置する作業方法は、設置場所に目印として立ててある旗の付近に台船が位置するよう、幸栄丸が、台船をその船首両舷にとった直径60ミリメートル長さ35メートルのY字状合成繊維製索と直径60ミリメートル長さ100メートルの合成繊維製索とで構成された曳航索で風上に向かって引き、台船の船尾両舷の錨2個を投入し、設置位置の誤差は15メートル以内と決められていたので、GPSにより位置を計測して他の作業船を使用して微調整を行い、台船の起重機を使って魚礁を設置する方法で、幸栄丸は、位置を保持するため、継続して舵と機関とを適宜使用し、設置作業が終了するまで風上に向かって引き続け、設置作業終了後も台船の錨索が絡まるのを防ぐため、台船の揚錨作業が終るまで風上に向かって継続して引かなければならなかった。
 B指定海難関係人は、10時00分ごろ魚礁設置海域に着いて待機し、測量船が設置位置を決定して目印の旗を入れたので、風下側から幸栄丸に引かれて近づき、11時30分ごろ同旗の風下側170メートルばかりで水深約120メートルの地点に台船の船尾両舷の錨を投入し、幸栄丸に風上側に引かせると共に錨索を300メートル延出して固定し、他の作業船を使用して位置の微調整を行い、同時50分から魚礁の設置作業を行っていたところ、12時20分ごろから風が強くなったものの同作業を続行するのに支障をきたすほどの風ではなかったので作業を続け、同時55分魚礁の設置作業を終えた。
 そして、B指定海難関係人は、A受審人に携帯電話で作業が終了したことを告げ、台船の揚錨を開始するので、引き続き風上に向かって極微速力で引き続けるよう指示し、13時00分揚錨を開始して台船の右舷船尾で錨索の状態を監視しながら最大速力でウインチを巻かせた。
 B指定海難関係人は、13時06分付近で監視していた他の作業船の乗組員から幸栄丸が右舷側に大きく傾斜していることを知らされ、ウインチの巻き込みを中止し、前方に走り、張っていた右舷側の曳航索を包丁で切断した。そのころ、台船の他の乗組員が緩んだ左舷側の同索を離した。
 一方、A受審人は、11時50分魚礁設置作業を開始する旨の連絡を受け、機関回転数毎分600とし、風上に向けて引き続け、その後、同作業が終了し、13時00分台船の揚錨作業に取り掛かるとの電話連絡を受け、30分ほど前から風が強くなり、波も高くなっていたが、この程度の風浪なら大丈夫と思い、機関の冷却効果を良くするため、機関室出入口の閉鎖を行うことなく、機関回転数を極微速力前進の毎分500とし、適宜舵を使用して船首が風上に立つよう操船した。
 幸栄丸は、船首を風上に向けて機関を極微速力前進としたまま、錨索を巻き上げながら後退中の台船に引かれて1.0ノットの後進行きあしで後退中、13時06分増勢した波浪により船首が右方に落とされ、A受審人が左舵一杯として船体を立て直そうと試みたものの、立ち直ることができず、そのまま台船に横引きされる状態となり、右舷側に大きく傾斜し、甲板上に浸入した海水が機関室の右舷側出入口から同室に浸入し、13時15分辺戸岬灯台から真方位249度7.3海里の地点で浮力を喪失して沈没した。
 当時、天候は曇で風力5の北風が吹き、付近には波浪注意報が発表されていて、海上は波がやや高く、潮候は下げ潮の中央期であった。
 沈没の結果、幸栄丸は全損となり、A受審人は沈没前に他の作業船に移乗した。

(原因)
 本件沈没は、波浪注意報が発表され、波浪がやや高まった状況下、沖縄県辺戸岬南西方沖合において、船首を風上に向けて揚錨中の台船を継続して引く際、気象、海象に対する配慮が不十分で、機関室出入口の閉鎖を行わず、増勢した波浪により船首が右方に落とされて横引きされる状態となり、右舷側に大きく傾斜し、甲板上に浸入した海水が機関室の右舷側出入口から同室に浸入し、浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、波浪注意報が発表され、波浪がやや高まった状況下、沖縄県辺戸岬南西方沖合において、船首を風上に向けて揚錨中の台船を継続して引く場合、気象、海象に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、この程度の風浪であれば大丈夫と思い、気象、海象に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、機関室出入口の閉鎖を行わないまま、風上に向けて揚錨中の台船を引き続けているうち、増勢した波浪により船首が右方に落とされて横引きされる状態となり、右舷側に大きく傾斜して甲板上に浸入した海水を機関室の右舷側出入口から浸入させ、浮力を喪失して沈没させるに至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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