(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月1日02時48分
八代海黒之瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第一龍生丸 |
バージ龍生丸 |
総トン数 |
148トン |
約2,312トン |
登録長 |
28.05メートル |
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全長 |
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68.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,463キロワット |
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3 事実の経過
第一龍生丸は、鋼製押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.4メートル船尾3.7メートルの喫水で、その船首部を砂1,500立方メートルを積載して船首4.3メートル船尾4.7メートルの喫水となった龍生丸の船尾凹部に嵌入(かんにゅう)して全長を約92メートルの押船列(以下「龍生丸押船列」という。)とし、平成12年10月31日21時45分三角港を発し、鹿児島県串木野港に向かった。
翌11月1日02時ごろA受審人は、黒之瀬戸の通峡のため昇橋して単独で当直に就き、同時03分七尾島島頂から150度(真方位、以下同じ。)0.8海里の地点で針路を229度に定め、機関を約8ノットの全速力前進にかけ、手動操舵で進行した。
02時40分A受審人は、黒之瀬戸大橋橋梁灯(C1灯)直下を航過し、折からの南潮流に乗じて10.5ノットの対地速力で、人家の灯火などでうっすら見える東岸の距離を目測しながら、黒之瀬戸のほぼ中央をこれに沿って南下し、同時44分半鹿児島県黒之浜港の沖合に達し、薩摩ノー瀬灯標(以下「緑灯」という。)から054度850メートルの地点において、209度の針路に定めて航行し、同時45分東岸に隠れていた小平瀬鼻灯台の灯火(以下「白灯」という。)が見え始めてまもなく、強い南東風を伴った降雨にあって東岸が見えにくくなるとともに、東岸のレーダー映像が雨雪反射により見えなくなった。
A受審人は、緑灯及び白灯が見えていたので陸岸は見えなくても航行できるものと思い、レーダーの感度を調整せずに続行し、南潮流時には西方に圧流されるのを知っていたことから左に当て舵をとりながら南下した。
同時46分ごろ淵ノ尻の灯火に並んだとき、A受審人は、平素であれば同地点で小平瀬鼻とノー瀬南方の浅瀬との中央に向く針路に転じていたが、陸岸が見えずに不安を覚えたので、東岸との距離をいつもよりも離すこととし、船位を確認することなく、同針路のまま直進した。
A受審人は、同浅瀬までは十分余裕があると思い、しばらく直進したのち左舵を取ったが、いつもと違って一向に左転しないので危険を感じ、同時47分半左舵一杯をとった。
こうして龍生丸押船列は、左転を始めたが効なく、ノー瀬南方の浅瀬に原速力のまま向首進行し、龍生丸は、同日02時48分小平瀬鼻灯台から302度550メートルの浅瀬に接触しつつ乗り切り、第一龍生丸は同浅瀬に接触せずに無事航過した。
当時、天候は雨で風力5の南東風が吹き、視程は約1海里で、潮候は上げ潮の末期で、海上はかなり波があり、乗揚地点付近海域には約3ノットの南潮流があった。
乗揚の結果、龍生丸は、貨物倉の2重底外板中央に長さ29メートル幅30センチメートルの亀裂(きれつ)、船尾機械室の単底外板の中央よりやや左舷寄りに長さ1メートル幅30センチメートルの亀裂その他2箇所の小亀裂や各部に凹損、圧壊、破孔、曲損を生じ、短時間のうちに浸水して傾斜した。
A受審人は、わずかに衝撃を感じただけで乗り揚げたことに気付かなかったが、03時ごろ龍生丸が大きく傾斜していることに気付き、急ぎ第一龍生丸を切り離して龍生丸を見守るうち、龍生丸は、03時10分沈没して全損となり、第一龍生丸は、船底に損傷はなく、龍生丸を離脱する際に左舷船首防舷材に凹損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、黒之瀬戸の東岸に沿って南下中、降雨により陸岸を視認することができなくなった際、レーダーを適切に使用するなど船位の確認が不十分で、ノー瀬南方の浅瀬に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、黒之瀬戸の東岸に沿って南下中、降雨により陸岸を視認することができなくなった場合、浅瀬に接近することのないよう、感度を調整するなどレーダーを適切に使用し、船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、緑灯及び白灯の視覚のみで航行できるものと思い、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、ノー瀬南方の浅瀬に向首進行して龍生丸の乗揚を招き、龍生丸を沈没、全損とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。