(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月29日01時15分
大分県佐伯港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三十八鶴喜丸 |
総トン数 |
199トン |
登録長 |
53.18メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第三十八鶴喜丸(以下「鶴喜丸」という。)は、航行区域を限定沿海区域とし、専らチップの輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、貨物約580トンを積載し、船首2.40メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成12年3月29日01時05分大分県佐伯港を発し、広島県大竹港に向かった。
ところで、A受審人は、28日17時30分ごろ乗船し、前任船長との引き継ぎを終えたのち、大竹港での荷役開始時刻を考慮して出航時刻を翌29日01時00分と決め、出航操船に引き続いて佐田岬沖合付近まで自らが単独の船橋当直に当たることとしていたところ、18時30分ごろから他の乗組員2人とともにビールと日本酒を飲みながら夕食をとり、20時ごろ食事を終えて自室に下がったものの、更に酒が飲みたくなり、21時ごろ1人で上陸してウイスキーをボトル3分の1ほど飲み、22時30分ごろ帰船した。
帰船後、A受審人は、23時過ぎに就寝したものの、なかなか寝付けず、1時間足らずの仮眠をとっただけで、翌29日00時40分ごろ補助機関の起動音で目覚め、過度の飲酒のためにいまだ酒気が残った状態で、意識がもうろうとし、かつ、眠気も催す状態にあったが、立ったまま、手動操舵で操船に当たるので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、出航時刻を遅らせて睡眠を十分にとるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、そのまま発航した。
01時10分A受審人は、トオドオ鼻灯台から255度(真方位、以下同じ。)440メートルの地点に達したとき、針路を佐伯湾泊地灯浮標を右舷側に見る101度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの対地速力とし、手動操舵により進行した。
01時12分A受審人は、トオドオ鼻灯台の灯光を左舷正横に見るようになり、その後、眠気のあるもうろうとした状態が回復せず、立って操舵輪にもたれたまま、何時しか居眠りに陥った。
こうして、鶴喜丸は、わずかに右舵が取られた状態で番匠川河口の浅所に向けて進行中、01時15分トオドオ鼻灯台から144度730メートルの地点において、その船首を110度に向け、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であた。
乗揚の結果、鶴喜丸は、船底外板に擦過傷を生じ、同日05時30分ごろ来援したタグボートにより、引き下ろされた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、大分県佐伯港港内において、居眠り運航の防止措置が不十分で、番匠川河口の浅所に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、大分県佐伯港を出航しようとする場合、睡眠時間を十分にとらず、過度の飲酒のためにいまだ酒気が残った状態で、意識がもうろうとし、かつ、眠気も催す状態にあったのであるから、居眠り運航とならないよう、出航時刻を遅らせて睡眠を十分にとるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、立ったまま、手動操舵で操船にあたるので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、眠気のあるもうろうとした状態が回復せず、立って操舵輪にもたれたまま、いつしか居眠りに陥り、わずかに右舵がとられた状態で番匠川河口の浅所に向けて進行し、同浅所への乗揚を招き、船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。