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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年門審第64号
件名

作業船第七智美丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年12月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、西村敏和、島 友二郎)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第七智美丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
船尾部右舷船底外板に破口、浸水し、のち廃船

原因
揚錨手順不適切

主文

 本件乗揚は、揚錨手順が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月27日17時00分
 福岡県苅田港

2 船舶の要目
船種船名 作業船第七智美丸
登録長 12.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 95キロワット

3 事実の経過
 第七智美丸(以下「智美丸」という。)は、港湾建設工事の潜水作業に従事するFRP製作業船で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、岸壁基礎造りの捨て石ならし作業の目的で、船首0.45メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、平成12年7月27日07時00分福岡県苅田港の井場川物揚場岸壁奥の桟橋を発し、同港本港岸壁東岸沖合約300メートルに設置されたコンクリートケーソン(以下「ケーソン」という。)へ向かった。
 ケーソンは、長さ約10メートル幅約8メートルで、本港岸壁東岸と平行に157度(真方位、以下同じ。)の法線で設置され、高潮時には頂部が水面下となり、高さ約20センチメートルの吊上用アイプレートが6箇設けられていた。
 07時20分A受審人は、ケーソンの北東面に接近し、船首を157度に向けた状態で、船首錨を左舷前方に船尾錨を正船尾後方に投じ、船体中央部に備えられたウインチのリールに巻かれた直径15ミリメートルの合成繊維製ロープを船首錨索、直径18ミリメートルの同ロープを船尾錨索とし、それぞれ50メートル延出して巻き止め、さらに右舷船首から直径15ミリメートルの合成繊維製係留索を約6メートル延出してケーソンのアイプレートにとり、船体をケーソンの北東面と平行に約5メートル離して船首端がケーソンの南東端に並ぶよう、両錨索及び係留索を適宜張り合わせて錨泊したのち、自らが潜水具を着用して海底に潜り、捨て石の凸凹をならす作業を開始した。
 16時50分A受審人は、東寄りの風浪が強くなり、折からの高潮時に当たりケーソンの頂部が海面下約1メートルとなったとき、前示作業を終えて係留岸壁に戻ることとし、甲板員を錨索等の巻き込み作業のためウインチ操作に就け、自らは操舵室で揚錨の指揮に当たった。
 A受審人は、左舷前方から強い風浪を受ける状況下、船首錨から先に揚げると、船体がケーソン側に圧流されることがないように船尾錨索を張った状態に保ちながら船首錨索を巻き込まなければならず、船首錨に把駐力を越える負荷がかかって同錨が引け、船体をケーソンから十分離すことができなくなるおそれがあったが、平素から船首錨を先に揚げていたので大丈夫と思い、船尾錨を先に揚げてから、船体をケーソンに著しく接近させることがないよう機関及び舵を使用して船首錨を揚げるなど、適切な揚錨手順をとることなく、16時53分右舷船首の係留索を離したのち、船首錨索の巻き込みを開始した。
 こうして、A受審人は、船尾錨索を張った状態に保ちながら徐々に繰り出し、船首錨索を巻き込んでいたところ、船首錨が引けて、船体をケーソンから十分離すことができないまま、16時58分船尾端がケーソンの南東端に並んだところで立ち錨の状態となり、船首錨索の巻き込みを停止して船尾錨索の巻き込みを始めた。
 17時00分少し前智美丸は、船尾錨索の巻き込みにより右舷後方へ約7メートル後退して船体中央部がケーソンの南東端に並んだとき、高起した波浪が左舷前方から来襲し、船首錨が効かないまま船体が右方へ運ばれ、17時00分苅田港北防波堤灯台から241度1,000メートルの地点において、船首が157度を向いた状態のままケーソンに乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力4の東風が吹き、波高は約1.5メートルで、潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、吊り上げ用アイプレートにより船尾部右舷船底外板に破口を生じて機関室に浸水し、自力でケーソンから離脱したが、警戒船によって曳航中に転覆し、そのまま発航地点付近の台船に引きつけられ、のち廃船処分とされた。

(原因)
 本件乗揚は、福岡県苅田港本港岸壁東岸沖合に設置されたケーソンの至近において、船首尾錨及び係留索を使用して錨泊中、強い風浪を受ける状況下で揚錨作業を行う際、揚錨手順が適切でなく、波浪により同ケーソンに打ち上げられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、福岡県苅田港本港岸壁東岸沖合に設置されたケーソンの至近において、船首尾錨及び係留索を使用して錨泊中、強い風浪を左舷前方から受ける状況下で揚錨作業を行う場合、船体がケーソン側に圧流されることがないように船尾錨索を張った状態に保ちながら船首錨索を巻き込むと、船首錨に把駐力を越える負荷がかかって同錨が引け、船体をケーソンから十分離すことができなくなるおそれがあったから、船尾錨を先に揚げてから、機関及び舵を使用して船首錨を揚げるなど、適切な揚錨手順をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、平素から船首錨を先に揚げていたので大丈夫と思い、船尾錨を先に揚げ、機関と舵を使用して船首錨を揚げるなどの適切な揚錨手順をとらなかった職務上の過失により、船首錨が引けてケーソンから十分離れることができないでいたところに、高起した波浪が左舷前方から来襲し、船首錨が効かないで同ケーソンに乗り揚げ、船尾部右舷船底外板に破口を生じさせて機関室に浸水を招き、のち廃船処分させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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