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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年門審第68号
件名

漁船第七十八金比羅丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年12月13日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、西村敏和、橋本 學)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第七十八金比羅丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
ビルジキールに曲損、潮流計及び魚群探知器の取付け部に破損

原因
針路選定不適切

主文

 本件乗揚は、進路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月1日03時00分
 大分県元ノ間海峡

2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十八金比羅丸
総トン数 80トン
全長 37.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 672キロワット

3 事実の経過
 第七十八金比羅丸(以下「金比羅丸」という。)は、5隻から構成されたまき網船団に所属する鋼製網船で、A受審人ほか12人が乗り組み、操業の目的で、船首2.00メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成12年6月30日18時00分大分県二股漁港の野崎船だまりを発し、元ノ間海峡を経由して同県鶴御埼南東方沖合8海里の漁場に向かい、20時00分ごろ同漁場に至って操業に従事し、翌7月1日02時00分操業を終えて帰途に就いた。
 ところで、元ノ間海峡は、佐伯湾湾口の南部に位置し、鶴見半島の地蔵埼と大島南端の立花鼻とに挟まれた幅約450メートルの海峡で、同埼北方沖合約120メートルのところに元ノ間灯標が設置され、同鼻南方沖合約100メートルには南北及び東西各方向の最大幅がそれぞれ80メートル及び60メートルの大阪碆と称する干出岩が存在し、同灯標と同碆間は、豊後水道と鶴見半島北側の各漁港とを往来する漁船や瀬渡し船などの通航路となっていた。
 A受審人は、10年ばかり前から金比羅丸に船長として乗り組み、平素元ノ間灯標と大阪碆間を通航していたので、同碆の位置及び漁船や瀬渡し船などの航行状況について承知しており、操舵スタンドの左右にそれぞれ1台ずつレーダーを設置していたものの、元ノ間海峡に接近した際、レーダー画面に元ノ間灯標の偽像が現れ、同画面上では同灯標を判別することが困難になることがしばしばあったので、レーダーを活用せず、専ら同灯標やその灯火を目視し、同碆に接近することがないよう、同灯標との距離を確認しながら同海峡を通航していた。
 帰途に就いたあとA受審人は、間もなく昇橋してきた機関長とともに見張りに当たり、02時30分鶴御埼灯台から175度(真方位、以下同じ。)4.8海里の地点に達したとき、針路を358度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。
 定針後、A受審人は、機関長が空気調整機点検のため機関室に下りたので、単独で船橋当直を行い、間もなく霧模様となり、次第に視界が悪化して視程が約1海里に狭められたことから、操舵スタンド左舷側のレーダーを12海里レンジに固定し、右舷側のレーダーを適宜近距離レンジに切り替え、船位及び周囲の状況を確認して鶴御埼灯台東方沖合の豊後水道を北上中、先行していた僚船からの無線連絡により、元ノ間海峡付近では視程が約200メートルであることを知った。
 02時55分A受審人は、鶴御埼灯台から019度1,400メートルの、元ノ間海峡東方1,500メートルの地点に差し掛かったとき、視界がますます悪化して元ノ間灯標の灯火を視認できなかったが、接近すれば同灯火を視認できるものと思い、狭隘な元ノ間海峡の通航を中止し、大島北方の広い海域を航行する適切な進路を選定することなく、そのころ6海里レンジとしていた右舷側レーダーに佐伯湾湾奥から出てくる漁船らしき船舶の映像を認め、同船と左舷を対して航過できるよう、針路を立花鼻寄りを航行する295度に転じ、機関を全速力前進のまま、手動操舵に切り替えて続航した。
 こうして、A受審人は、元ノ間灯標の灯火を視認できず、0.5海里レンジとした右舷側レーダーにも偽像が生じて同灯標の映像を確認できないまま西行するうち、大阪碆に著しく接近したものの、このことに気付かず、03時00分少し前立花鼻寄りを航行する針路としていたので、少し修正しようと左舵をとって回頭中、03時00分元ノ間灯標から004度200メートルの地点において、金比羅丸は、船首が285度を向いたとき、原速力のまま、大阪碆の南部に乗り揚げた。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視程は約50メートルであった。
 乗揚の結果、金比羅丸は自力で離礁できず、来援した2隻の引船によって満潮時に引き下ろされ、ビルジキールに曲損を、潮流計及び魚群探知器の取付け部に破損をそれぞれ生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、大分県鶴御埼北東方沖合の豊後水道において、同県二股漁港に向けて帰航中、霧により視界が制限された際、進路の選定が不適切で、狭隘な元ノ間海峡を通航して大阪碆に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、大分県鶴御埼北東方沖合の豊後水道において、操業を終え同県二股漁港に向けて帰航中、霧により視界が制限された場合、通航の目標としていた元ノ間灯標の灯火を視認できなかったのであるから、狭隘な元ノ間海峡の通航を中止し、大島北方の広い海域を航行する適切な進路を選定すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、接近すれば同灯火を視認できるものと思い、同海峡の通航を中止し、大島北方の広い海域を航行する適切な進路を選定しなかった職務上の過失により、大阪碆に著しく接近して同碆への乗揚を招き、ビルジキールに曲損を、潮流計及び魚群探知器の取付け部に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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