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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年横審第54号
件名

作業船沙知丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年12月19日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、花原敏朗、甲斐賢一郎)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:沙知丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
船首部船底外板に破口、沈没し、のち解撒

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月8日10時20分
 愛知県日間賀漁港

2 船舶の要目
船種船名 作業船沙知丸
登録長 10.62メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 139キロワット

3 事実の経過
 沙知丸は、愛知県常滑港を基地として中部国際空港建設作業に従事するFRP製作業船で、A受審人が1人で乗り組み、作業用ウインチ修理のための回航の目的で、船首0.5メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成12年11月8日08時00分同港を発し、同県泉港に向かった。
 ところで、三河湾は、伊勢湾の東隣にあって渥美半島と知多半島とに囲まれた大湾で、北方の知多湾及び東方の渥美湾に別れ、三河湾口及びその付近には、南から順に野島、篠島、築見島、日間賀島などが南北に並び、北東方にやや離れて佐久島があり、これら各島周辺には干出岩を含む浅礁が拡延していた。伊勢湾から渥美湾に向かう船舶は、野島と渥美半島との間の中山水道、日間賀島と知多半島との間の師崎水道及び前示各島間の水道を通航することになるが、師崎水道の両側、篠島、築見島、日間賀島及び佐久島の各距岸約1海里以内には、ノリやワカメの養殖施設が9月から翌年5月までの間にわたって設置され、可航幅が狭められるので、水路調査を十分に行う必要があった。
 日間賀島は、日間賀漁港が、北岸の久渕、新井浜両地区(以下「北港」という。)、西岸の西浜地区(以下「西港」という。)及び南東岸の小戸浜地区(以下「東港」という。)の3箇所に離れて存在し、愛知県師崎港から北港にカーフェリー及び西、東両港に定期高速船が、また、同県河和港から西港又は東港を経由して篠島あるいは同県蒲郡にそれぞれ同高速船が周年就航していた。東港に入出港する同高速船は、日間賀島とその南方約1,000メートルのところにある築見島との間の水道を通航していた。
 日間賀、築見両島間の水道は、日間賀島及び篠島の各漁業協同組合が、愛知県知事から受けた第1種区画漁業免許の漁場図並びに同免許の制限及び条件に従い、同水道の南北両側の養殖施設に浮標付きの漁場標識灯をそれぞれ設置していたので、船舶の安全な通航が確保されており、その可航幅は約250メートルであった。
 北港は、その北西側に第10号、第11号、第12号及び第13号各防波堤が築造され、日間賀港第12号防波堤西灯台(以下「日間賀灯台」という。)から076度(真方位、以下同じ。)280メートルの地点から075度方向に陸岸まで築造された第11号防波堤東端の東北東方約200メートルにワシドと称する干出岩及び同防波堤の東端部北側に地続きで北方に約50メートル拡延するトンビと称する干出岩がそれぞれ存在し、同防波堤の北側には、防波堤沿いに消波ブロックが沖合に向かって約10メートルの幅でトンビまで積み上げられていた。
 A受審人は、同年1月から2月までの間、日間賀港第12号防波堤延長工事に従事した際、佐久島の北方沖合を経て師崎水道を通航したことがあったほか、日間賀島周辺にノリやワカメの養殖施設が多数設置されていること、地元の漁船が同島北岸の養殖施設と陸岸との間を通航すること、及び同港第11号防波堤から北側に約25メートル離れたところで作業船が消波ブロックを投入していたことなどを、それぞれ見て知っていたが、ワシドが存在することも、トンビが同防波堤から陸続きで拡延していることも知らなかった。
 A受審人は、発航に先立ち、伊勢湾から渥美湾に向かって通航経験のない日間賀、築見両島間の水道を通航することとしたが、養殖施設などが存在して同水道を通航できないときには、地元漁船が通航する日間賀島北岸の養殖施設と陸岸との間の通航路を探して通航すれば良いと思い、水路誌や漁具定置箇所一覧図に当たるなどして同水道の養殖施設の設置状況についての水路調査を十分に行うことなく、発航に至った。
 こうして、A受審人は、知多半島に沿って南下したのち、前方に日間賀、築見両島間の水道に設置された養殖施設が見え始めたとき、同水道の養殖施設には漁場標識灯が設置され、船舶の安全な通航が確保されているにもかかわらず、一見して同施設が同水道全面に設置されているように見えたことから、同水道を安全に通航することができないと判断して日間賀島北方に向かうこととした。
 10時17分A受審人は、日間賀灯台から043度330メートルの地点に達したとき、針路を090度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.0ノットの速力で、日間賀島北岸の養殖施設と陸岸との間の地元漁船の通航路を探しながら、手動操舵により進行した。
 10時19分A受審人は、日間賀灯台から065度570メートルの地点で、養殖施設と陸岸との間に通航路を認めることができなかったことから、日間賀島北岸の通航をあきらめて佐久島北方に向かうこととし、第11号防波堤沿いに消波ブロックから北方に約15メートル離して西行するつもりで右回頭を始め、同時19分半同灯台から070度570メートルの地点で、針路を同防波堤に平行となる255度に転じ、トンビ先端に拡延している暗礁に向首する状況となって続航中、10時20分日間賀灯台から071度500メートルの地点において、沙知丸は、原針路、原速力のまま、その船首が同暗礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、潮侯は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、船首部船底外板に破口を生じ、自力離礁できずに風波にもまれているうちに沈没し、のち日間賀漁港に引き付けられたが、修理費用の都合で全損、解撤された。

(原因)
 本件乗揚は、伊勢湾から渥美湾に向かって東行する際、水路調査が不十分で、船舶の安全な通航が確保された日間賀、築見両島間の水道を通航せず、日間賀島北岸の日間賀漁港第11号防波堤東端部北側に地続きで拡延する暗礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、伊勢湾から渥美湾に向かって東行する際、日間賀、築見両島間の水道を通航しようとする場合、同水道を初めて通航するのだから、同水道の養殖施設の設置状況がわかるよう、水路誌や漁具定置箇所一覧図に当たるなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同水道に養殖施設が設置されていて通航できないときには、日間賀島北岸の養殖施設と陸岸との間を地元の漁船が通航しているのを見て知っていたので、その通航路を探して通航すれば良いと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同水道の養殖施設には漁場標識灯が設置され、船舶の安全な通航が確保されていたにもかかわらず、一見して同施設が同水道全面に設置されているように見えたことから、同水道を安全に通航することができないと判断して日間賀島北岸に向かい、日間賀漁港第11号防波堤東端部北側に地続きで拡延する暗礁に向首進行して乗揚を招き、沙知丸の船首部船底外板に破口を生じさせたのち沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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