(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月3日19時15分
愛知県佐久島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート赤と白 |
総トン数 |
14トン |
登録長 |
11.91メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
470キロワット |
3 事実の経過
赤と白は、最大搭載人員14人のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同受審人が経営する会社の社員2人を同乗させ、三河湾と伊勢湾での遊走の目的で、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成11年8月3日10時00分愛知県三河港出光三河御津マリーナを発した。
A受審人は、同マリーナ発航後、自ら操船にあたり、古野電気株式会社製のPS−8000型カラーGPSプロッタ魚群探知機(以下「GPSプロッター」という。)の電源を入れて航跡を記録しながら、三河湾を西行し、同湾内の佐久島、日間賀島及び知多半島の幡豆岬の各南方沖合を通過し、伊勢湾に出て三重県松阪港に向かった。
ところで、A受審人は、この海域の通航に慣れていたので、佐久島南方には、同島南端から南東方約300メートル沖合まで干出岩が伸びてその先端付近に佐久島東灯標(以下「東灯標」という。)が設置され、更に同南端から南西方約450メートル沖合まで暗礁が拡延していることを知っていた。
また、A受審人は、航走中、GPSプロッターのディスプレイに海岸線情報、現在位置、航跡等が表示されるようにしており、GPSの測位精度が100メートル程度であることと、海岸線情報が直接航海の用に供する精度ではなく、同プロッターの取扱説明書に、航海上の判断には必ず正規の海図を使用するよう注意が掲載されていることを知っていた。
A受審人は、同日12時半ごろ松阪港に入港して更に同社の社員10人を乗船させ、同港と三重県鳥羽港との間を遊走し、松阪港に戻って社員10人を下船させたのち、フライングブリッジに発航時からの同乗者2人を伴って昇り、17時00分同港を出航して帰途についた。
19時03分A受審人は、羽島灯標から138度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点に達したとき、折から日没後の薄明時で周囲が薄暗くなり始めた状況のもと、佐久島南方沖合を航行することとしたが、GPSプロッターに表示させた往路の航跡を反対にたどれば、同島南端から拡延する暗礁を安全に航過できるものと思い、GPSの精度及び同プロッターに表示された海岸線の精度を考慮して同暗礁から十分離れる針路とするなど、針路の選定を適切に行うことなく、針路を同プロッターに表示させた往路の反方位である069度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
19時14分少し過ぎ、A受審人は、赤と白が東灯標から249度1,030メートルの地点に達し、前示暗礁が正船首方500メートルに迫る状況となったが、依然、針路の選定を適切に行わず、これに向首したまま続航中、19時15分東灯標から249度550メートルの地点において、原針路、原速力のまま暗礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、日没時刻は18時54分であった。
乗揚の結果、赤と白は、舵及びプロペラに損傷を生じて航行不能となり、損傷状況の確認のため投錨したが、南寄りの風波により圧流されて東灯標付近の岩場に入り込み、後日サルベージにより引き降ろされたが、船底及び船側外板に広範囲に亀裂を生じ、のち、廃船とされた。
(原因)
本件乗揚は、日没後の薄明時、愛知県佐久島南方沖合を航行する際、針路の選定が不適切で、同島南端から拡延する暗礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、日没後の薄明時、佐久島南方沖合を航行する場合、GPSの測位精度及び同プロッターに表示された海岸線の精度を考慮して同島南端から拡延する暗礁から十分離れる針路とするなど、針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、GPSプロッターに表示させた往路の航跡を反対にたどれば、佐久島南方の暗礁を安全に航過できるものと思い、針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、同暗礁に向首したまま進行して乗揚を招き、舵とプロペラに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。