(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年3月16日14時15分
山形県酒田港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船十一昌寶丸 |
総トン数 |
11.46トン |
全長 |
19.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
360キロワット |
3 事実の経過
第十一昌寶丸(以下「昌寶丸」という。)は、駆け回し式沖合底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、平成13年3月16日02時40分山形県酒田港の水産岸壁を出港し、同港西南西方沖合15海里ばかりの漁場に向かい、05時ごろ漁場に到着して操業を始め、12時50分真ダラ及びハタハタ約330キログラムを獲て操業を打ち切り、酒田港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から245度(真方位、以下同じ。)15.1海里の地点を発進し、酒田港に向け帰途に就いた。
A受審人は、13時26分南防波堤灯台から245度9.0海里の地点に達したとき、針路を065度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、このところ早朝に出港してその日の午後に帰港するという操業を連日続けており、出港から帰港まで1人で操船に当たっていて、この間休息をとることがなかった。また、15年程前から糖尿病を患い、インスリンの投与による治療を続けていたところ、1昨日からこの投与を止めていて体調が思わしくなく、時折眠気を催すことがあったものの出漁していた。
こうして、帰途に就いたA受審人は、操舵室左舷側に置かれた折りたたみいすに腰掛けて1人で船橋当直に当たり、連日の操業の疲れと持病の糖尿病により眠気を催すおそれがあったが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、乗組員を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとらないまま続航し、13時56分南防波堤灯台から245度3.2海里の地点で、酒田港港口付近に4ないし5隻のスパンカーを掲げた釣り船を認めたのち、いつしか居眠りに陥った。
A受審人は、折からの酒田港沖合を流れる日本海海流の反流によって右方に圧流されながら同港の南防波堤に向首して進行していたが、居眠りしていてこれに気付かず、転針することができないまま続航し、14時15分昌寶丸は、南防波堤灯台から154度720メートルの地点の同防波堤南側の消波ブロックに、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には約1.5ノットの南流があった。
乗揚の結果、船底外板に破口を生じ、自力離礁したものの機関室に浸水して航行不能となり、来援した僚船により酒田港岸壁に引き付けられる途中で転覆し、のち解撤された。
(原因)
本件乗揚は、操業を終えて山形県酒田港西南西方沖合を同港に向け帰港中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港南防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、操業を終えて山形県酒田港西南西方沖合を同港に向け帰港中、単独でいすに腰掛けて船橋当直に当たる場合、連日の操業の疲れと持病の糖尿病により眠気を催すおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、乗組員を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、同港南防波堤に向首したまま進行して乗揚を招き、船底外板に破口を生じさせ、のち全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。