(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月20日08時40分
九州西岸九十九島
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船ウイングせがわ |
総トン数 |
19トン |
全長 |
18.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
842キロワット |
3 事実の経過
ウイングせがわは、長崎県瀬川港と佐世保港との間に就航するFRP製定期旅客船であるが、当日は団体旅行者の臨時輸送の目的で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.8メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成12年11月20日07時00分瀬川港を発し、平戸港に至ったものの、しけ模様のため団体旅行者の乗船が中止となり、08時10分同港を発航して帰途に就いた。
A受審人は、出航して間もなく、機関を25.0ノットの全速力前進にかけ、操舵室右舷寄りにあるいすに腰を掛けて手動操舵で南下し、青砂埼に並航したころ、往航時南東の風が強かったことから、鹿町、小佐々町の沿岸である通称九十九島の海域を航行することとし、途中、機関を半速力や微速力前進として一時的に速力を減じながら島しょの間を南下した。
A受審人は、こうした団体客の輸送にこれまでも何度となく従事しており、そのときは、九十九島の観光も兼ねていたので、島々を縫う航路については以前から調査するとともに自らが操船して何回も航行していた。
08時38分A受審人は、臼浦港楠泊東防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から301度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点に至ったとき、浅島と陸岸とがなす可航水域200メートルばかりの水路に入ることから、機関を14.0ノットの微速力前進として水路のほぼ中央をこれに沿って航行した。
A受審人は、左舷側のいすに腰を掛けて見張りを行っていた甲板員と会話を交わしながら進行し、08時39分半防波堤灯台から293度1.55海里の地点に達し、船首を徐々に右に転じていたとき、同水路の南口に出て水路が開放されたことから気を許し、針路の保持を十分に行うことなく、舵を握ったまま甲板員との会話に気を奪われていたので、船首が予定の針路から30度ばかり右に偏する257度となっていたが、このことに気付かずに続航中、08時40分防波堤灯台から289度1.65海里の地点において、浅所に乗り揚げた。
当時、天候は小雨で風力4の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、両舷推進翼及び推進軸を曲損し、推進軸取付け部、右舷機クラッチを損傷した。
(原因)
本件乗揚は、九州西岸九十九島の狭い水路において、針路の保持が不十分で、浅所に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、九州西岸九十九島の狭い水路を航行する場合、操舵に専念して針路を保持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板員と会話を交わして針路を保持しなかった職務上の過失により、浅所に向け進行して乗揚を招き、推進器などを損傷させるに至った。