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平成13年門審第58号
件名

自動車運搬船新日洋丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年11月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、相田尚武、島 友二郎)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:新日洋丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:新日洋丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)

損害
船体前部の第1車両甲板右舷側外板に破口、浸水し沈没

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月5日06時04分
 玄界灘

2 船舶の要目
船種船名 自動車運搬船新日洋丸
総トン数 1,573トン
全長 84.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット

3 事実の経過
 新日洋丸は、船首船橋型の自動車運搬船で、A及びB両受審人ほか6人が乗り組み、軽自動車など335台を載せ、船首3.20メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成13年2月3日14時50分三重県四日市港を発し、関門海峡経由で福岡県博多港に向かった。
 ところでA受審人は、玄界灘を西行して福岡湾に接近する際、筑前大島灯台の北西方沖合から栗ノ上礁の南東方約2海里の海域を経て同湾湾口に向かう207度(真方位、以下同じ。)の針路線をボールペンで海図に記載し、その針路線に沿って航行するよう船橋当直者に指示していた。
 B受審人は、A受審人が指揮を執る新日洋丸に一等航海士として乗り組み、10回ばかり博多港に入港していたので、栗ノ上礁には、栗ノ上礁灯標を設置した干出の高さ1.7メートルの干出岩やその周辺に同灯標から305度約350メートルのところの同高さ0.7メートルの干出岩(以下「北西方干出岩」という。)などが点在することを承知していた。
 A受審人は、船橋当直を、00時から04時までと12時から16時までを次席一等航海士と甲板員1人に、04時から08時までと16時から20時までを一等航海士にそれぞれ行わせ、自らは08時から12時までと20時から24時までの船橋当直並びに出入港時及び狭水道通航時の操船指揮などに当たっていたもので、同月5日01時30分部埼灯台東方沖合で昇橋して操船の指揮を執り、関門海峡を通航したのち、03時10分六連島北東方沖合に至ったとき、福岡湾湾口の北方約2海里付近で再び昇橋して入航操船に当たるつもりで、次席一等航海士に船橋当直を委ねて降橋した。
 降橋するとき、A受審人は、全速力前進のまま、いつもの針路線に沿って続航すると、博多港中央航路入口(以下「航路入口」という。)に予定より30分ばかり早く到着することが予測されたので、予定時刻に合わせるため、04時以降の、福岡湾湾口に至る間に減速や迂回進路をとるなどして時間調整を行うこととし、その旨を一等航海士に引き継ぐよう、当直航海士に指示したが、平素各当直航海士に時間調整を任せて問題がなかったので、いつものとおり当直航海士に任せても大丈夫と思い、進路付近の栗ノ上礁に干出岩などが点在するので、同礁から安全な距離を保って航行することなど、迂回進路をとって時間調整を行う際の注意事項を明確に指示しなかった。
 B受審人は、03時40分福岡県白島北方沖合4海里付近で昇橋し、航路入口到着予定時刻に合わせ、時間調整を行う旨の船長からの指示を引き継いで単独の船橋当直に就き、減速による時間調整を行うことを機関室に連絡したところ、機関当直に就いていた機関長から、機関回転数を大きく下げないようにとの要求があったので、機関回転数を少し落として減速することに加え、迂回進路もとることとした。
 05時10分B受審人は、筑前大島灯台から334度2.3海里の地点に達したとき、レーダーにより大島との距離を測るなどして船位を確認したものの、海図に当たって航路入口までの距離を測り、航路入口到着時刻を確認しないまま、適宜レーダーで福岡湾湾口西部に位置する玄界島までの距離を測って同時刻を確認するつもりで、針路をボールペンで海図に記載されていた同灯台の北西方沖合から栗ノ上礁の北方を通過する針路線の223度に転じて自動操舵とし、機関を全速力前進から10回転下げた回転数毎分200にかけ、11.9ノットの対地速力で進行した。
 やがてB受審人は、12海里レンジとしたレーダーにより玄界島までの距離を測り、航路入口到着時刻を算出したところ、このまま福岡湾湾口に直行しても、当初の到着予定時刻までに着かないことに気付いたので、05時55分栗ノ上礁灯標から004度2.0海里の地点に差し掛かったとき、急いでレーダーで求めた玄界島灯台の少し左方に向く188度の針路に転じ、再び機関を全速力前進の回転数毎分210に戻して13.0ノットの対地速力で玄界灘を南下した。
 転針したとき、B受審人は、左舷船首4度2.0海里に栗ノ上礁灯標の灯火を視認でき、北西方干出岩に向首する状況となったが、航路入口到着時刻が気になり、レーダーにより玄界島までの距離を測定して航路入口到着時刻の確認作業に専念し、船位と針路線を海図に記入して栗ノ上礁との最接近距離を測るなど、自船の船位と同礁との相対位置の確認を十分に行わなかったので、北西方干出岩に向首する針路で航行していることに気付かなかった。
 B受審人は、その後もレーダーで玄界島までの距離測定と航路入口到着時刻の確認作業を繰り返し、自船の船位と栗ノ上礁との相対位置の確認が不十分のまま、同干出岩を避ける針路に転じないで続航中、06時04分栗ノ上礁灯標から305度350メートルの地点において、新日洋丸は、原針路、原速力のまま、北西方干出岩に乗り揚げ、これを乗り切った。
 当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
 A受審人は、自室で休息中、船底からの衝撃を感じて急いで昇橋し、事後の措置に当たった。
 乗揚の結果、船体前部の第1車両甲板右舷側外板に長さ約5メートル最大幅約0.5メートルの、及び右舷前部船底外板に長さ約2.5メートル最大幅約0.15メートルの破口をそれぞれ生じて浸水し、06時50分栗ノ上礁灯標から233度900メートルの地点で沈没して全損となった。また、乗組員は、沈没前にライフラフトに乗り移り、来援した巡視船に全員救助された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、玄界灘を福岡湾湾口に向けて南下する際、自船の船位と栗ノ上礁との相対位置についての確認が不十分で、北西方干出岩に向けて進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、迂回進路をとって時間調整を行う際の注意事項を明確に指示しなかったことと、船橋当直者が、迂回進路をとって時間調整を行った際、自船の船位と栗ノ上礁との相対位置についての確認を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、玄界灘を博多港に向けて航行中、航路入口到着予定時刻に合わせるため、減速に加え、迂回進路をとって時間調整を行ったのち、福岡湾湾口に向けて針路を転じる場合、干出岩などが点在する栗ノ上礁の存在を知っていたのであるから、船位と針路線を海図に記入して同礁との最接近距離を確認するなど、自船の船位と栗ノ上礁との相対位置についての確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、航路入口到着時刻が気になり、レーダーを使用して玄界島までの距離測定と航路入口到着時刻の確認作業に専念し、船位と針路線を海図に記入して同礁との最接近距離を確認するなど、自船の船位と栗ノ上礁との相対位置についての確認を十分に行わなかった職務上の過失により、北西方干出岩に向首していることに気付かないまま進行して同干出岩に乗り揚げ、これを乗り切って船体前部の第1車両甲板右舷側外板などに破口を生じさせて浸水を招き、のち沈没させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、関門海峡西口を博多港に向けて航行中、航路入口到着予定時刻に合わせるための時間調整を当直航海士に任せて降橋する場合、進路付近の栗ノ上礁に干出岩などが点在するので、同礁から安全な距離を保って航行することなど、迂回進路をとって時間調整を行う際の注意事項を明確に指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、平素各当直航海士に時間調整を任せて問題がなかったので、いつものとおり当直航海士に任せても大丈夫と思い、迂回進路をとって時間調整を行う際の注意事項を明確に指示しなかった職務上の過失により、B受審人が迂回進路をとって時間調整を行ったのち、福岡湾湾口に向けて南下する際、北西方干出岩に向首進行して同干出岩に乗り揚げ、これを乗り切って前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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