(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月19日05時30分
瀬戸内海 播磨灘北西部
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十八成栄丸 |
総トン数 |
497トン |
全長 |
70.63メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第二十八成栄丸(以下「成栄丸」という。)は、兵庫県家島諸島の坊勢漁港を基地とし、専ら日帰り運航により埋立工事用の砂礫運搬に従事する船尾船橋型貨物船で、船長T及びA受審人ほか3人が乗り組み、砂礫1,800トンを積載し、船首3.4メートル船尾5.2メートルの喫水をもって、平成12年5月19日02時30分坊勢漁港を発し、岡山県笠岡港に向かった。
ところで、成栄丸の運航形態は、午前中、揚げ地に入港して荷揚げを行い、午後、家島諸島の積み地に戻り、翌日の荷揚げ用の砂礫を積み、その日のうちに坊勢漁港に帰り、夜には、乗組員全員が自宅で休み、翌朝発航して揚げ地に向かうもので、毎週日曜日が休日でもあり、休息を十分とれる状況であった。
また、T船長は、船橋当直をA受審人と単独の3時間交替の輪番制とし、出入港及び狭水道操船は自らが指揮にあたり、乗組員に対し、日頃から、当直中に眠気を催すことがあれば、椅子から立ち上がって外気にあたるとか、必要があれば船長を起こすことなどを指示し、居眠り運航の防止に配慮していた。
こうして、T船長は、出航操船にあたり03時15分家島諸島院下島北東方付近で、A受審人と船橋当直を交代して降橋した。
A受審人は、出航日の前日、積み地の男鹿島から、19時ごろ坊勢漁港に戻り、自宅で十分な休息をとっていたものの、起きたばかりで眠気が残っていたので、船長から当直を引き継いだあとコーヒーを飲んで、舵輪後方右舷側に置かれた背もたれ付きの椅子に腰掛けて船橋当直にあたり、03時19分院下島灯台から340度(真方位、以下同じ。)750メートルの地点に達したとき、針路を播磨灘北航路第4号灯浮標北方に向けて248度に定め、自動操舵として機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で進行した。
04時30分A受審人は、備前黄島灯台から156度1.0海里の地点に達したとき、海上も穏やかで、前路に気になる他船も見当たらなかったことから、気が緩み、眠気を感じたが、特に疲労の蓄積もなく、休息も十分とっていたので、しばらくすれば眠気が覚めると思い、椅子から立ち上がって外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、椅子に腰掛けたまま当直中、いつしか居眠りに陥った。
成栄丸は、05時21分井島北岸沖合に向かう予定転針点の播磨灘北航路第2号灯浮標南方を航過したことに気付かず、玉野市出埼南東岸に向首したまま続航中、05時30分大蛭島灯柱から302度1,000メートルの出埼南東岸の浅所に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は低潮期であった。
T船長は、自室にいたところ乗揚の衝撃を感じ、急ぎ昇橋して事後の措置にあたった。
乗揚の結果、船首部船底外板に破口を伴う凹損を生じて船首水槽に浸水したが、自力で離礁したあと岡山県宇野港に入港し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、播磨灘北西部の小豆島北方を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針点を航過し、玉野市出埼南東岸の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、椅子に腰掛けて単独の船橋当直に就き、自動操舵として播磨灘北西部の小豆島北方を西行中、海上も穏やかで、周囲に気になる他船もなく、眠気を感じた場合、居眠りに陥らないよう、椅子から立ち上がって外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、特に疲労の蓄積もなく、休息も十分とっていたので、しばらくすれば眠気が覚めると思い、椅子から立ち上がって外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、予定の転針点を通過して出埼南東岸の浅所に向首したまま進行して乗揚を招き、成栄丸の船首部船底外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。