(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月5日19時25分
瀬戸内海 安芸灘 安居島南西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二海福丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
58.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
3 事実の経過
第二海福丸(以下「海福丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、マグネシア クリンカー523.55トンを載せ、船首2.20メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成12年7月5日11時30分山口県宇部港を発し、岡山県片上港に向かった。
ところで、A受審人は、機関長を機関整備点検など昼間の作業に専念させて、自らと一等航海士とで6時間交代2直制の航海当直を行い、また荷役は昼間のみであったが自らも荷役の立ち合いに従事する状況のもと、乗船後1箇月が経過し、その間海福丸がほとんど休みなく運航されて休日をとれなかったことや、宇部入港前日の航海中、同月3日夜半から霧により視界が制限されたため操船指揮にあたり同夜は2時間ほどしか休息できなかったことなどから、出港前夜7時間の睡眠をとったものの疲労気味であった。
A受審人は、出港操船を終えて船橋当直を一等航海士に引き継ぎ、15時30分ごろから30分ばかり上関海峡通峡に際し操船指揮をとったのち、17時30分沖家室島付近で一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、その後単独で操船にあたってクダコ水道を通過し、19時05分歌埼灯台から000度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で、安居島南西端を正船首少し左方に見るよう針路を061度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。
その後間もなくA受審人は、疲労を感じたので、舵輪後方のいすに腰掛けて前路の見張りにあたっていたところ、付近に通航船を見かけなくなったことから緊張が緩み少し眠気を催すようになったが、そのまま単独で当直を続けても大丈夫と思い、翌朝まで作業予定のなかった機関長を呼んで二人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航するうちいつしか居眠りに陥った。
こうして、海福丸は、その後微弱な潮流により2度左方に流されて安居島南西端に向かって進行し、19時20分同島まで1,500メートルに接近したものの、A受審人が居眠りをしていてこのことに気付かず、針路が修正されないまま続航し、同時25分少し前同人がふと目覚め前方至近に島影を認めたもののどうすることもできず、19時25分安居島灯台から236度1,000メートルの安居島南西岸に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇りで風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、日没は19時25分であった。
乗揚の結果、船首船底部外板に亀裂及び破口を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、瀬戸内海安芸灘を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、安居島南西端に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独の船橋当直にあたって安芸灘を東行中、疲労を感じて眠気を催すようになった場合、翌朝まで作業予定のなかった機関長を呼んで2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、多少眠気を催すようになったもののそのまま単独で当直を続けても大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、安居島南西端に向かって進行して乗揚を招き、船首船底に亀裂及び破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。