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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年函審第45号
件名

漁船永福丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年11月30日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(工藤民雄、安藤周二、織戸孝治)

理事官
大石義朗

受審人
A 職名:永福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船底外板に破口、機関室に浸水し、のち廃船

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月12日02時31分
 北海道奥尻島東岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船永福丸
総トン数 9.73トン
全長 17.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 382キロワット

3 事実の経過
 永福丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が弟の甲板員とともに乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年6月11日15時05分北海道奥尻港を発し、同港南東方沖合の漁場に向かった。
 15時35分ごろA受審人は、奥尻港南東方2海里付近の漁場に至り、いか約750キログラムを漁獲したところで操業を終え、22時40分漁場を発進し、23時ごろ奥尻海峡東側の久遠漁港に入港して漁獲物を水揚げしたのち、翌12日01時15分同漁港を発進し、奥尻港に向け帰途についた。
 ところで、A受審人は、同月1日いか漁の解禁に伴い操業を開始したもので、海上が時化てない限り、夕方出港して23時ごろまで奥尻海峡で操業を行い、久遠漁港で水揚げして奥尻港に戻り、夕方に出港する形態を繰り返しており、土曜日の夕方から翌日にかけ休漁して休息をとるほか、帰宅後7ないし8時間の睡眠時間がとれていたが、解禁前に約5箇月間陸上の仕事に就いていたことから、まだ漁船の生活リズムに戻らないままに熟睡できず、前日も03時ごろ帰宅して07時ごろまで就寝し、その後出漁の準備をして仮眠をとり、出漁前には7時間ほどの睡眠時間をとっていたものの、断続的な睡眠状態となっていた。
 A受審人は、出航操船に引き続いて単独で船橋当直に当たり、01時35分久遠港外南防波堤灯台から259度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点で、針路を奥尻島赤石岬の少し北に向ける256度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、折からの北西風により操舵室の窓ガラスに飛沫がかかるので同室の窓をすべて閉め、中央少し左舷側の踏台型のいすに腰を掛けて作動中の回転窓から前方を見ながら見張りに当たって進行した。
 02時13分A受審人は、奥尻港東防波堤灯台から085度3.7海里の地点に達したとき、陸上の灯火を目視して針路を同灯台の明かりを左舷船首約1点に見る281度に転じ、同一速力でいすに腰を掛けたまま続航した。
 A受審人は、当時、出漁前には断続的な睡眠状態であったうえ、奥尻島に近づき島陰に入って船体動揺もなくなり、基地である奥尻港への入港を間近に控えて緊張を欠く状況で、そのままいすに腰を掛けて見張りを続けると居眠りするおそれがあったが、睡眠時間がとれているので無難に当直を続けられると思い、いすから立ち上がって手動操舵に切り替えるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、引き続き同じ姿勢で見張りを続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
 永福丸は、A受審人が居眠りを続け、奥尻港口に向けての転針がなされないまま、奥尻島東岸球浦の海岸に向首進行し、02時31分奥尻港東防波堤灯台から025度1.1海里の地点において、原針路、原速力で岩礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、永福丸は、船底外板に破口を生じて機関室に浸水し、主機関及び変圧器などを濡損し、のちクレーン船により引き下ろされたが、廃船処分とされた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、北海道奥尻海峡を奥尻港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、奥尻島東岸球浦の海岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、操業を終えて水揚げ後、単独で船橋当直に就いて奥尻海峡を奥尻港に向け自動操舵により帰航中、同港に接近した場合、出漁前には断続的な睡眠状態であったうえ、基地である同港への入港を間近に控えて緊張を欠く状況で、引き続きいすに腰を掛けて見張りを続けると居眠りするおそれがあったから、いすから立ち上がって手動操舵に切り替えるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、睡眠時間がとれているので無難に当直を続けられると思い、いすから立ち上がって手動操舵に切り替えるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、居眠り運航となって奥尻島東岸球浦の海岸に向首したまま進行して乗揚を招き、永福丸の船底外板に破口及び機関室に浸水を生じさせ、船体を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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