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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年長審第25号
件名

貨物船明安丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年10月25日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平野浩三、亀井龍雄、河本和夫)

理事官
向山裕則

損害
左舷船側外板、右舷船底外板に破口、のち水没、濡れ損

原因
見張り不十分、針路選定不適切

主文

 本件乗揚は、屈曲した水道分岐点の最狭部付近に向けて北上中、同付近で出会うおそれのある南下船に対する見張り不十分、かつ針路選定が適切でなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月19日20時15分
 平戸瀬戸広瀬導流堤

2 船舶の要目
船種船名 貨物船明安丸
総トン数 191トン
全長 55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット

3 事実の経過
 明安丸は、鋼材輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Y(昭和2年2月5日生、五級海技士(航海)免状受有、受審人に指定されていたところ平成13年9月14日死亡したので、これを取り消された。)ほか2人が乗り組み、スクラップ約300トンを載せ、船首2.0メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成12年8月19日15時25分長崎港を発し、兵庫県尼崎西宮芦屋港に向かった。
 18時00分Y船長は、佐世保港沖合において単独の航海当直につき、その後平戸瀬戸を北上し、20時12分南風埼灯台から295度(真方位、以下同じ。)240メートルの地点において、レーダーレンジを1.5海里とし、針路を005度に定め、機関を全速力前進にかけ、2.0ノットの潮流に乗じて10.8ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 ところで平戸瀬戸北口は、瀬戸中央部に位置する広瀬と称する小島から南西方に延びる浅礁に築造された長さ130メートルの導流堤を挟んで、可航幅約300メートルの西水道と可航幅約200メートルの東水道とが形成され、潮流の北流時には、導流堤付近で東水道に向かう流れが向きを変えて北東流となり、東水道に入航したばかりの北上船が導流堤に圧流されることがあるため、瀬戸通航の注意事項として北上する総トン数500トン未満の船舶は東水道を、それ以上の船舶は西水道を通航すること、南下する船舶は、東水道を通航せず、必ず西水道を通航することなどが周知され、Y船長は、同瀬戸の通航経験が豊富で、その注意事項については承知していた。
 こうして、Y船長は、定針したとき、右舷船首約10度1.0海里ばかりに南下船が広瀬灯台及び広瀬導流堤灯台の灯火によって視認が妨げられていたもののレーダーではこれを認めることができ、その後同船と導流堤付近で出会ったとき導流堤及び南下船に著しく接近する事態が危惧(きぐ)される状況にあったが、レーダーを活用して他船の存在を確認して東水道を通航する針路を選定することなく、西水道を一瞥(いちべつ)して南下船を視認しなかったことから西水道を北上しても大丈夫と思い、西水道を航行するつもりで続行した。
 20時14分少し前Y船長は、広瀬導流堤灯台から200度400メートルの地点に達したとき、同灯台と広瀬灯台の両灯火の中間となる右舷船首16度700メートルのところに前示の南下船の灯火を認め、その動静を確かめているうち、導流堤至近において同船と著しく接近して危険な事態に陥ることが判明したため、同時14分半少し過ぎ同灯台から215度200メートルの地点において、急きょ東水道に向けて右舵一杯として右回頭中、急激に導流堤に圧流され、20時15分広瀬導流堤灯台から180度5メートルの地点において船首を077度に向け、原速力で浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、導流堤南端付近の潮流は約2.0ノットの北流であった。
 乗揚の結果、左舷船側外板、右舷船底外板に破口を生じ、船首が水没して自力離礁することができず、やがて機関室、居住区が水没して濡れ損を生じ、のち曳船に救助され、北九州市の造船所に引きつけられて修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、平戸瀬戸において、潮流に乗じて屈曲した水道分岐点の広瀬導流堤付近に向けて北上する際、レーダーを活用するなど西水道南下船に対する見張り不十分、かつ針路選定が不適切で、同付近で南下船と出会って急きょ予定の西水道から東水道に向けて針路変更中、潮流に圧流されたことによって発生したものである。

 よって主文のとおり裁決する。





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