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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年長審第13号
件名

漁船第二十八新吉丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年10月17日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、平野浩三、河本和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第二十八新吉丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
右舷船底外板に破口を伴う凹損、プロペラに曲損

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月10日08時20分
 八代海伊唐瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八新吉丸
総トン数 77.09トン
全長 35.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 345キロワット

3 事実の経過
 第二十八新吉丸(以下、「新吉丸」という。)は、船尾船橋型FRP製漁船で、A受審人ほか15人が乗り組み、漁業研修生2人を乗せ、鰹一本釣漁の目的で、船首2.0メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、平成12年3月10日08時00分鹿児島県長島の薄井漁港を発し、伊唐瀬戸、黒之瀬戸経由土佐沖の漁場に向かった。
 伊唐瀬戸は、長島とその北東方にある伊唐島との間の瀬戸で、北西から南東方に約2海里延びており、水深5メートル以上の幅は約300メートルで、北西側は薄井漁港に接し、南東側は八代海南部に接続していた。同瀬戸最狭部には伊唐大橋が架かり、同橋南東方約1,300メートルの瀬戸中央部付近に中瀬の干出岩が存在していた。また、中瀬のほぼ南東方約1,400メートルの、同瀬戸南東口中央部付近に伊唐瀬戸大曽根灯浮標(左舷標識)が設置されていた。従って、同瀬戸を南航する船舶は同灯浮標を右舷側に見て、逆の場合は左舷側に見て航行する必要があった。
 A受審人は、同年2月に海技免状を取得して3月に船長として新吉丸に乗り組んだばかりで、伊唐瀬戸を自身で操船して航行するのは初めてであったから、発航前に海図等を参照して水深、水源方向、危険物の存在等を確かめるなど水路調査を十分に行う必要があったが、水深は十分にあり、日中なので物標等を視認しながら航行すれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった。
 A受審人は、伊唐大橋を通過して間もなく、08時16分長島宮ノ浦港防波堤灯台から344度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、緑色の伊唐瀬戸大曽根灯浮標を視認し、同灯浮標を左舷前方に見るよう針路を143度に定めたところ、水面下に存在する中瀬の干出岩に向首することになった。
 A受審人は、中瀬の干出岩が存在することを知る由もなく、緑色の伊唐瀬戸大曽根灯浮標は左舷浮標なのでこれを左舷側に見て航行すれば良いものと思い込んでいたのでなんら疑問を感じることなく、定針直後機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
 A受審人は、同針路同速力のまま進行し、08時20分長島宮ノ浦港防波堤灯台から008度1,150メートルの地点において、原針路、原速力のまま中瀬に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、右舷船底外板に破口を伴う凹損及びプロペラに曲損等を生じたが、自力離礁し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、八代海伊唐瀬戸において、水路調査が不十分で、水面下の干出岩に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、船長として初めて自ら操船して伊唐瀬戸を航行する場合、海図を参照して水深、水源の方向、危険物の存在等を確かめるなど水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、水深は十分にあって物標等を視認しながら航行すれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、干出岩の存在を知らないまま同岩に向かって進行して乗揚を招き、右舷船底外板に破口を伴う凹損及びプロペラに曲損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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