(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月9日20時45分
沖縄県那覇港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートウエルネスIII |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
11.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
3 事実の経過
ウエルネスIII(以下「ウエルネス」という。)は、船体中央部の船室上部に操縦席が設けられた、2基2軸のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、試運転を兼ねてクルージングの目的で、整備士など8人を乗せ、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年12月9日16時00分那覇港那覇マリーナを発し、慶良間列島に向かい、18時00分沖縄県座間味港に立ち寄り、同時30分同港を発して那覇港に向かった。
ところで、A受審人は、平成11年5月に海技免状を取得し、同年8月から那覇港内の防波堤へ釣り客を送迎する遊漁船の船長職に就き、夜間、同港唐口から入航するときには、入航針路法も付近の航路標識の灯質などについても知らないまま、目視により那覇港新港第1防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)の緑色の灯火を左側に見て入航していた。
那覇港発航に先だって、A受審人は、それまで目視によって那覇港唐口から入航したことがあったので、大丈夫と思い、海図第243号または小型船用簡易港湾案内「南西諸島」にあたるなどして、同口からの入航針路法や付近の航路標識の灯質など、水路調査を十分に行わなかった。
A受審人は、座間味港を発進後、機関回転数を毎分1,750回転として15.5ノットの対地速力で、座間味島の北方から慶瀬島の南方を経て那覇港の西方に至り、その後、北上して宜野湾港の西方で反転し、那覇港唐口から入航するつもりで南下した。
そして、A受審人は、20時36分南灯台から320度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点に達し、左舷前方に那覇港中央灯浮標の灯火を認め、同灯火を右舷側至近に航過するよう、ゆっくりと左転し、針路を150度に定め、同時41分同灯浮標を右舷側50メートル離して航過する直前、左舷前方に点滅する緑色の灯火を認めたが、水路調査を十分に行っていなかったので、これを南灯台の灯火と思い込み、同灯火を左側に見て航過するよう針路を左に転じて097度とし、同じ速力で進行した。
ウエルネスは、同じ針路及び速力で続航中、20時45分少し前A受審人が前方に那覇港新港第1防波堤を認め、右舵一杯としたが効なく、20時45分南灯台から010度920メートルの同防波堤外側のさんご礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、両舷の推進器翼及び同軸を曲損し、両舷の舵板に折損を、船体中央から船尾船底にかけて擦過傷をそれぞれ生じ、のち、修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、那覇港において、同港の唐口から入航する際、水路調査が不十分で、那覇港新港第1防波堤外側のさんご礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、那覇港において、同港の唐口から入航する場合、航路標識を見誤ることのないよう、針路法や付近の航路標識の灯質など水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、これまで目視によって那覇港唐口から入航したことがあったので、大丈夫と思い、那覇港発航に先だって海図第243号または小型船用簡易港湾案内「南西諸島」にあたるなどして、同口からの入航針路法や付近の航路標識の灯質など水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、左舷前方に点滅する緑色の灯火を認め、これを南灯台の灯火と思い込み、同灯火を左側に見て航過するよう転針し、那覇港新港第1防波堤外側のさんご礁に向首進行して乗揚を招き、両舷の推進器翼及び同軸を曲損し、両舷の舵板に折損を、船体中央から船尾船底にかけて擦過傷をそれぞれ生じさせるに至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。