（事実）
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年11月30日22時15分
渥美半島南岸
2 船舶の要目
| 船種船名 |
貨物船第十八邦友丸 |
| 総トン数 |
460トン |
| 全長 |
71.00メートル |
| 機関の種類 |
ディーゼル機関 |
| 出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十八邦友丸（以下「邦友丸」という。）は、専ら三河港と千葉港との間で鋼材の輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材1,145トンを載せ、船首3.25メートル船尾4.25メートルの喫水をもって、平成11年11月30日18時00分三河港を発し、千葉港葛南区に向かった。
ところで、邦友丸は、同日07時00分三河港に入港して積荷役を行い、A受審人は、一等航海士と交代で荷役作業の看視に当たるなど出港前に十分な休息をとることができなかったものの、荷役のない日曜日などに休養をとるほか、同作業中にも休養をとることができたので、出港時に疲労を感じるような状況ではなかった。
A受審人は、航行中の船橋当直を同受審人と一等航海士の2人による単独の6時間交替制で行うことに決め、慣れた海域を航行することから、18時30分同航海士に同当直を委ねて降橋し、自室で休息した。
21時00分A受審人は、赤羽根港東防波堤灯台から140度（真方位、以下同じ。）3.7海里の地点において、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で進行したものの、北西風の連吹により発達した波浪の影響を受けて大きな船体動揺が続いていたので、その動揺を軽減するために左転して渥美半島南岸沖合約3海里まで接近し、そこで080度の針路に転じたのち、陸岸に沿って東行するつもりで、同時05分同灯台から131度4.3海里の地点で、針路を056度に転じて続航した。
こうしてA受審人は、窓や出入口を閉め切り、室温を23度に設定した船橋内で、操舵輪の船尾方に置いた肘掛けいすに腰を掛けて見張りに当たっているうち、通航に慣れた海域であることや周囲に他船を見掛けなかったことから気が緩み、眠気を催すようになったが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、立ち上がって外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく進行し、いつしか居眠りに陥った。
A受審人は、21時30分渥美半島南岸沖合約3海里の転針予定地点に差し掛かったものの、居眠りをしていて080度の針路に転じることができず、その後も同じ針路、速力のまま同半島南岸に接近し、22時14分半ふと目を覚まし、船首方近距離のところに陸岸の影を認めて直ちに機関を全速力後進にかけたが及ばず、22時15分舞阪灯台から266度7.6海里の地点において、邦友丸は、5.0ノットの前進行きあしとなったとき、同半島南岸の浅所に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船底外板に擦過傷及びプロペラに曲損を生じたが、来援した引船により引き降ろされ、のち修理された。
（原因）
本件乗揚は、夜間、渥美半島南岸に向けて東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、転針予定地点で針路が転じられないまま進行したことによって発生したものである。
（受審人の所為）
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり、渥美半島南岸に向けて東行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がって外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、転針予定地点で針路が転じられないまま渥美半島南岸に向首進行して乗揚を招き、船底外板に擦過傷及びプロペラに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
号