(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月8日22時20分
福島県江名港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船宝精丸 |
総トン数 |
30トン |
全長 |
25.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
367キロワット |
3 事実の経過
宝精丸は、オッター式による沖合底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、船首1.2メートル、船尾3.0メートルの喫水をもって、平成13年2月7日02時00分福島県江名港を発し、同港南方沖合の漁場で操業し、かれい、たこなど3トンを漁獲し、翌8日21時30分塩屋埼灯台から156度(真方位、以下同じ。)10.1海里の地点を発し、帰途に就いた。
A受審人は、機関長及び甲板員3人に漁獲整理を行わせ、江名港まで約1時間の航程であったことから、漁場から同港までの予定で、1人で船橋当直に当たり、21時40分塩屋埼灯台から158度8.5海里の地点に達したとき、針路を325度に定め、機関を全速力前進にかけ、自動操舵とし、11.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、今回の操業では昼夜別なく14回の投網を行い、A受審人は、漁場に着いた7日03時30分から21時までは揚網時及び投網時の操船のほか、曳網時の船橋当直も行い、休息せず、21時から翌8日05時までの間は揚網時及び投網時の操船を行い、曳網時には機関長及び甲板員3人を適宜船橋当直に当たらせ、操舵室内のベッドで飛び飛びに約1時間、合計5時間ほど仮眠をとり、05時から漁場発航時の21時30分までは揚網時及び投網時の操船のほか、曳網時の船橋当直も行い、休息せず、また福島県相馬市の自宅から2時間かけて自動車を運転して今回乗り組んだという経緯もあって、漁場発航時睡眠が不足し、疲労した状態であった。
22時05分A受審人は、3海里レンジのレーダーで右舷前方に江名港の防波堤を認め、東防波堤が約1海里となったならば適宜変針することとし、いっときのつもりでいすに腰掛けたところ、眠気を覚えたが、港までなんとか当直を続けることができると思い、そのころには漁獲整理作業、片付けなどを終えていた甲板員を船橋に呼んで2人当直を行うなど、居眠り運航防止のための措置をとらないでいるうち、やがて居眠りし始めた。
こうして、宝精丸は、同じ針路、速力で進行し、22時20分江名港西防波堤灯台から198度700メートルの地点において、海岸近くの浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で、風力3の北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
乗揚の結果、宝精丸は、船底に破口を生じて浸水し、沈没さらに横転し、波により動揺するうち、船体の損傷が著しく進行し、のち引き上げられたが、解体された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、福島県江名港南方沖合の漁場から同港へ帰航中、2人当直を行うなど居眠り運航防止のための措置が不十分で、同港港域内の海岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福島県江名港南方沖合の漁場から同港へ帰航中、睡眠が不足し、疲労した状態で船橋当直中、眠気を覚えた場合、2人当直とするなど居眠り運航防止のための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、港までなんとか当直を続けることができると思い、2人当直とするなど居眠り運航防止のための措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けているうち居眠りし、同港港域内の海岸に向首したまま進行して乗揚を招き、沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。