(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月11日16時25分
熊本県牛深港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船サン ロイヤル |
漁船第2地洋丸 |
総トン数 |
84トン |
4.59トン |
全長 |
24.50メートル |
12.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1.340キロワット |
180キロワット |
3 事実の経過
サン ロイヤルは、ウォータージェット推進装置2基を有する軽合金製双胴型定期旅客船で、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客8人を乗せ、船首0.9メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成13年2月11日定刻の16時20分熊本県牛深港を発し、同県上平港に向かった。
牛深港は、天草下島南端部に位置し、西方が港奥、東方が港口となって長島海峡に接し、港口は、ほぼ南北に延びる北側の台場沖防波堤と南側の白瀬二号防波堤で囲まれ、両防波堤間の幅120メートルの水路が港の出入口となっており、台場沖防波堤南端に牛深港台場沖防波堤灯台、白瀬二号防波堤北端に牛深港白瀬二号防波堤北灯台(以下「白瀬二号防波堤北灯台」という。)がそれぞれ設置され、入出港する船の目標となっていた。
A受審人は、船橋前部中央にある操縦席に腰掛け、眼高5.4メートルの状態で操船に当たり、港奥にある県営桟橋に船首を北方に向けて入船左舷付けした状態から後進で離桟したのち、前進右回頭しながら東方の港口の方向に向かって徐々に増速しながら進行した。
16時23分45秒A受審人は、牛深ハイヤ大橋橋梁灯(C二灯)の真下に達して10.0ノットの対地速力となったとき、汽笛で長音1回を吹鳴し、白瀬二号防波堤北端を右舷側20メートル離して通過するよう、針路を083度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を半速力前進として徐々に増速を続けながら、港口にほぼ直角の角度で進入する態勢で手動操舵によって進行した。
定針したときA受審人は、右舷船首17度750メートルに第2地洋丸(以下「地洋丸」という。)が存在したが、操舵室最頂部の水面上高さが2.4メートルの同船は、ほぼ低潮時で水面上の高さが4.8メートルとなった白瀬二号防波堤の陰に入っていて視認できず、その後も地洋丸が更に同防波堤に接近する態勢で進行したので、全く同船を認めることができないまま進行した。
A受審人は、白瀬二号防波堤が障害物となってその背後の他船を見ることができない状況であったが、長音1回の汽笛信号を行わないまま続航した。
A受審人は、16時25分わずか前白瀬二号防波堤の突端付近に達して15ノットの対地速力となったとき、突然同防波堤の陰から現れた地洋丸の船首部を認め、直ちに全速力後進にかけたが及ばず、16時25分白瀬二号防波堤北灯台から041度30メートルの地点において、サン ロイヤルの右舷船首部が、原針路原速力のまま、地洋丸の右舷船首部に前方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は低潮時であった。
また、地洋丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、延縄漁の目的で、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日03時00分基地としていた牛深港を発し、鹿児島県阿久根市沖合の漁場に向かった。
B受審人は、04時15分漁場に至って操業を開始し、15時00分操業を終えて帰途につき、16時20分半白瀬二号防波堤北灯台から125度1.080メートルの地点で、針路を307度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で手動操舵により、操舵室天井から顔を出して見張りをしながら進行し、同時21分牛深港港域内に入った。
B受審人は、出航する船はいないものと思い、港域内に入った後も白瀬二号防波堤に接近する態勢で進行し、北寄りに針路を変えるなど左舷に見る同防波堤突端からできる限り遠ざかって航行することなく、原針路のまま進行した。
B受審人は、16時23分45秒白瀬二号防波堤北灯台から122度320メートルの地点に達したとき、左舷船首27度750メートルに船橋最頂部の水面上高さが6.12メートルのサン ロイヤルが存在したが、2.6メートルの眼高よりはるかに高い白瀬二号防波堤が障害物となり、同船を視認できなかった。
B受審人は、依然として左舷に見る防波堤突端に近寄る態勢のまま進行し、16時25分わずか前同防波堤突端付近に達したとき、突然同防波堤の陰から現れたサン ロイヤルの船首部を認め、とっさに左舵一杯としたが、船首が253度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、サン ロイヤルは右舷船首部に凹損を生じ、地洋丸は右舷外板上部を破損したほか、操舵室を大破したが、のちそれぞれ修理された。
(原因)
本件衝突は、熊本県牛深港において、地洋丸が、防波堤突端を左舷に見て航行する際、できるだけこれに遠ざかって航行しなかったことによって発生したが、サン ロイヤルが、長音1回の汽笛信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、牛深港において、低潮時で眼高よりはるかに高くなった防波堤突端を左舷に見て航行する場合、他船と出会い頭に衝突する危険を避けるよう、できるだけ同突端に遠ざかって航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、出会う船はいないものと思い、できるだけ防波堤突端に遠ざかって航行しなかった職務上の過失により、同突端付近でサン ロイヤルと出会い頭の衝突を招き、サン ロイヤルの右舷船首部に凹損を生じさせ、地洋丸の右舷外板上部及び操舵室を破損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人が、長音1回の汽笛信号を行わなかったことは本件発生の原因となるが、衝突の1分余り前に汽笛で長音1回を吹鳴していることに徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。