(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月18日04時47分
長崎県久根浜漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船勝栄丸 |
総トン数 |
4.74トン |
登録長 |
9.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
70 |
3 事実の経過
勝栄丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成11年9月17日17時00分長崎県久根浜漁港を発し、同時10分久根浜港東防波堤灯台から210度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に至って錨泊し、船首部左右両舷からそれぞれ2本ずつ釣り糸を投入して操業を始めた。
ところで、A受審人は、この時期17時00分ごろ久根浜漁港を出港し、同港から同港南方の佐須瀬にかけての沖合1.000メートル付近で錨泊して翌日04時00分ごろまで手釣りによるいか一本釣り漁に従事したのち、帰港して水揚げ作業を行って08時00分ごろ自宅に戻り、その後も次の操業準備に当たっていたことから、帰宅後4時間ばかりの睡眠しかとれず、加えて好天と好漁に恵まれて1週間以上連続して出漁していたので、疲労が蓄積した状態であった。
こうしてA受審人は、魚群探知器を見たり、いかの揚収を行うなどして休息をとれないまま操業を続け、翌18日04時00分いか20キログラムを獲たところで帰港することとし、漁具などの後片付け作業を始めたところ、連日の出漁による疲労の蓄積から強い眠気を催したが、久根浜漁港までは短時間の航海なのでまさか居眠りすることはあるまいと思い、そのまま錨泊を続けて一時仮眠するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、同作業を続けた。
04時40分A受審人は、揚錨を終えて前示錨地を発進すると同時に、針路を久根浜漁港方面に見えた明かりに向く027度に定め、機関を回転数毎分2.000にかけて12.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
発進後A受審人は、操舵室左右の窓を少し開け、同室右舷寄りに立って左手で舵輪を握り、右腕を右舷側の窓枠にのせ、側壁にもたれた姿勢で操船に当たっていたところ、間もなく居眠りに陥った。
A受審人は、居眠りを続けたまま、久根浜漁港西防波堤に著しく接近し、04時47分久根浜港東防波堤灯台から251度210メートルの地点において、勝栄丸は、原針路、原速力のまま、右舷船首が久根浜漁港西防波堤西側に設置された消波ブロックに衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、船首部を圧壊し、マスト、舵及び推進器翼に損傷を生じたが、のち修理され、また、A受審人は腹部を打撲して小腸を断裂し、入院42日の加療を要する重傷を負った。
(原因)
本件消波ブロック衝突は、夜間、長崎県久根浜漁港南方沖合の錨地において、操業を終えて帰港する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港西防波堤に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県久根浜漁港南方沖合の錨地において、単独による操業を終えて帰港するに当たり、漁具などの後片付け作業中、連日の出漁による疲労の蓄積から強い眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、そのまま錨泊を続けて一時仮眠するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、久根浜漁港までは短時間の航海なのでまさか居眠りすることはあるまいと思い、そのまま錨泊を続けて一時仮眠するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、錨地を発進して間もなく、居眠りに陥り、同港西防波堤に著しく接近して同防波堤西側に設置された消波ブロックへの衝突を招き、船首部を圧壊させ、マスト、舵及び推進器翼に損傷を生じさせ、自らも腹部を打撲して小腸断裂などの重傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。