(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月17日04時35分
山口県角島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船福徳丸 |
漁船漁照丸 |
総トン数 |
199.49トン |
4.9トン |
全長 |
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14.95メートル |
登録長 |
43.60メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
404キロワット |
3 事実の経過
福徳丸は、専ら屎(し)尿の運搬に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、屎尿340トンを積載し、船首2.45メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成12年7月16日23時30分長崎県壱岐島の勝本港辰ノ島防波堤灯台から167度(真方位、以下同じ。)0.8海里地点の係留場所を発し、山口県見島北方約70海里沖合の屎尿投棄海域へ向かった。
A受審人は、出航操船に引き続き単独で船橋当直に当たり、23時45分若宮灯台から301度1.5海里の地点に達したとき、針路を033度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、微弱な潮流の影響を受けて実航針路032度、対地速力10.0ノットで、法定灯火を表示して進行した。
翌17日03時30分A受審人は、沖ノ島灯台から347.5度10.4海里の地点に至り、次直のB指定海難関係人と当直を交替した際、同指定海難関係人は一級小型船舶操縦士の免状を受有しており、また単独での船橋当直にも慣れていたことから、広い海域の航海に関しては任せておいても大丈夫と思い、接近する船舶を認めたならば直ちに報告する旨を明確に指示することなく引継ぎを終え、その後、船橋内の左舷後方に設けられたソファーに横になって仮眠を始めた。
当直に就いたB指定海難関係人は、自動操舵のまま、同じ針路、速力で続航中、04時20分沖ノ島灯台から007.5度17.2海里の地点に至ったとき、右舷前方5海里付近に漁照丸が表示する白、紅の2灯を視認したことからレーダーでの監視を行っていたところ、同時26分その距離が3.0海里となり、その後も引き続き接近する模様であることを認めたが、A受審人から、接近する船舶を認めたならば直ちに報告する旨の指示を受けていなかったことから、同船の接近を報告しないまま進行した。
そして、04時29分B指定海難関係人は、沖ノ島灯台から009度18.6海里の地点に達したとき、漁照丸の前示灯火を右舷船首49度2.0海里に認め、その後、同船が前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、自船の速力が比較的低速力であったことや、平素、当該海域で遭遇する漁船はより高速力であったことから、そのまま前方を無難に航過していくものと思い、依然として、その旨の報告を行わずに続航した結果、仮眠中のA受審人は、このことに気付かず、自らが操船して速やかに避航措置をとることができなかった。
こうして、B指定海難関係人は、A受審人に漁照丸の接近を報告しないまま進行中、04時35分少し前右舷船首至近に迫った同船との衝突の危険を感じ、急いで左舵一杯としたが、04時35分沖ノ島灯台から010.5度19.6海里の地点において、福徳丸は、船首が000度を向いたとき、原速力で、その右舷前部に漁照丸の船首が後方から68度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、前示ソファーで仮眠中、大きな衝撃音を聞いて目覚めたのち、B指定海難関係人からの報告を受けて衝突の事実を知り、直ちに操船を交替して機関を停止し、事後の措置に当たった。
また、漁照丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同月17日02時00分山口県角島漁港を発し、同港北西方約35海里沖合の漁場へ向かった。
02時30分C受審人は、角島灯台から282度3.3海里の地点に至ったとき、針路を292度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、15.5ノットの対地速力で、法定灯火を表示して進行した。
ところで、C受審人は、平素から漁場に到着する前に、予め操業に備えて漁具の点検やその準備を行っていたことから、04時05分沖ノ島灯台から033度19.5海里の地点に至り、漁場到着まで約30分となったとき、レーダーで近くに他船がいないことを確認したのち、操舵室を離れて船尾デッキに移動し、後方を向いた姿勢で同作業を始めた。
こうして、C受審人は、04時29分沖ノ島灯台から015度19.4海里の地点に至ったとき、左舷船首30度2.0海里のところに、福徳丸が表示する白、白、緑の3灯を視認することができ、その後、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、船尾デッキで前示作業に従事し、時折前方を振り返るなどして周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、さらに接近したとき機関を停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中、漁照丸は、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福徳丸は右舷前部外板に凹損を生じ、漁照丸は船首船底外板を圧壊するに至った。
(原因)
本件衝突は、夜間、山口県見島北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上する福徳丸が、前路を左方に横切る漁照丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行する漁照丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
福徳丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に当直を引き継ぐ際、接近する船舶を認めたならば直ちに報告する旨を明確に指示しなかったことと、船橋当直者が接近する漁照丸を認めたことを報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、山口県見島北西方沖合を北上中、無資格の船橋当直者に当直を引き継ぐ場合、広い海域といえども自らが操船して他船を避航できるよう、接近する船舶を認めたならば直ちに報告する旨を明確に指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、同当直者が一級小型船舶操縦士の免状を受有しており、また単独での船橋当直にも慣れていたことから、広い海域の航海に関しては任せておいても大丈夫と思い、接近する船舶を認めたならば直ちに報告する旨を明確に指示しなかった職務上の過失により、西行中の漁照丸が、衝突のおそれがある態勢で自船に接近してきたとき、その旨の報告を得られず、自らが操船して避航動作をとることができないまま進行して同船との衝突を招き、福徳丸の右舷前部外板に凹損を生じさせ、漁照丸の船首船底外板を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、山口県見島北西方沖合において、漁場へ向けて西行する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漁場が近づいたことから操業に備えて漁具の点検や準備をしようと思い、レーダーで安全を確認したのち操舵室から船尾デッキに移動して同作業に従事し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する福徳丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、機関を停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、接近する漁照丸を認めたものの船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。