(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月25日04時05分
岡山県水島港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第3戎丸 |
貨物船第五代進丸 |
総トン数 |
4.87トン |
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登録長 |
9.20メートル |
10.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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139キロワット |
漁船法馬力数 |
15 |
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3 事実の経過
第3戎丸(以下「戎丸」という。)は、小型機船底引き網漁に従事する中央部に操舵室を備えた木製漁船で、船長Kが1人で乗り組み、漁獲物の選別を行う作業員1人を乗せ、えびこぎ網漁の目的で、平成12年9月25日00時00分岡山県水島港西部の渡里地区船だまりを発し、漁場に向かった。
ところで、戎丸は、灯火設備として、甲板上高さが3.35メートルの前部マスト頂部に、24ボルト60ワットの船用電球2個が、船横方向に約40センチメートルの間隔で、裸でソケットに取り付けられ、そのうち右舷側のものはそのまま白灯として、左舷側の1個は緑色ビニールテープが巻かれて緑灯として使用されており、他に灯火設備はなく、それまで夜間航行中は、漁ろうに従事している間も通じて、これら白、緑2灯のみが表示されていた。
K船長は、当時、白灯が故障中だったので緑灯のみを点灯して出航し、水島港内の操業許可区域である玉島防波堤北側の海域に至って操業を始め、その後港外の下水島沿岸に移動し、03時55分ごろ港内に戻り、それまでの漁獲が思わしくなかったので、通航船がほとんどない時間帯で船舶交通の妨げとなるおそれがなかったものの、玉島3号ふ頭沖の前示許可区域を外れた海域で操業を再開した。
04時02分K船長は、水島港八幡防波堤灯台(以下「八幡防波堤灯台」という。)から100度(真方位、以下同じ。)460メートルの、水深約5メートルの地点で、針路を270度に定め、船尾から鉄製張棒に横並びに取り付けた長さ約7メートルの袋網2枚を、約20メートル延出したワイヤロープで引き始めたが、トロールにより漁ろうに従事している船舶として所定の灯火を表示することができず、緑灯1個だけを点灯した状態で、2.0ノットの曳網速力で、手動操舵により進行した。
04時04分K船長は、左舷船首74度540メートルのところに、第五代進丸(以下「代進丸」という。)の白、緑2灯を視認できる状況で、その後同船が衝突のおそれのある態勢で前路に接近していたが、見張りを十分に行っていなかったので同船に気付かず、行きあしを停止するなど衝突を避けるための措置をとらずに続航中、04時05分戎丸は、八幡防波堤灯台から107度280メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その左舷中央部に、代進丸の船首が前方から80度の角度で衝突し、乗り揚がった。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
また、代進丸は、専ら岡山県笠岡市真鍋島から出荷される鮮魚類を、同島から水島港の魚市場に輸送する、後部に操舵室を備えたFRP製交通船兼貨物船で、A受審人が1人で乗り組み、鮮魚約100キログラムを載せ、船首0.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日03時30分真鍋島岩坪地区を発し、所定の灯火を表示のうえ、水島港に向かった。
A受審人は、水島港湾事務所が管理している玉島西航路変針点右舷灯浮標と称する浮標の灯火を船首目標にして03時59分ごろ水島港港域内に入り、04時01分半玉島防波堤南端を替わった水島港玉島防波堤灯台から070度120メートルの地点で、針路を玉島3号ふ頭とその西方の八幡防波堤灯台間に向けて010度に定め、機関を半速力前進にかけ、17.0ノットの対地速力で、操舵室に座って手動操舵により進行した。
そのころA受審人は、レーダーを0.5海里レンジにして周囲の状況を確かめたところ、支障になる他船を認めず、その後は前方に港頭地区や市街地の明かりが多数点在する状況下、専ら目視で見張りを行うこととして続航した。
04時04分A受審人は、八幡防波堤灯台から164度630メートルの地点に達したとき、右舷船首6度540メートルのところに、白灯と比べると識別しにくかったものの、陸岸の明かりに混じった戎丸の緑灯を視認できる状況で、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、通航船がほとんどない時間帯で、一度レーダーで確かめたこともあり安心し、前路の見張りを十分に行うことなく、同船の灯火に気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行中、同時05分わずか前船首至近に戎丸のマストを認め、急ぎ機関を中立にしたが効なく、代進丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、戎丸は、左舷中央部、操舵室などを大破して水没し、代進丸は、船首船底部を破損して浸水し、K船長(昭和7年3月18日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が、溺水により死亡した。
(原因)
本件衝突は、夜間、水島港において、操業許可区域の外側で底引き網を曳網中の戎丸が、所定の灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、入航する代進丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、水島港において、前方に港頭地区や市街地の明かりが多数点在する状況下、入航する場合、前路の戎丸の灯火を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、通航船がほとんどない時間帯で、一度レーダーで確かめたこともあり安心し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、陸岸の明かりに混じった前路の戎丸の灯火に気付かず進行して衝突を招き、戎丸の左舷中央部、操舵室などを大破して水没させ、代進丸の船首船底部を破損し、K船長が溺水により死亡するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。