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平成13年神審第96号
件名

押船神鍬丸のり養殖施設衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年12月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏)

副理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:神鍬丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:神鍬丸機関長 

損害
右舷機のクラッチと同ロープを損傷

原因
針路選定不適切

裁決主文

 本件のり養殖施設衝突は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月21日20時50分
 兵庫県東播磨港南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 押船神鍬丸
総トン数 19トン
登録長 14.05メートル
5.40メートル
深さ 1.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 809キロワット

3 事実の経過
 神鍬丸は、船首船橋型の鋼製押船兼引船で、A受審人及びB指定海難関係人が乗り組み、船首0.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、船首にはしけM22(全長45.5メートル、幅10.0メートル、深さ4.1メートル)を押し、船尾にはしけ多木丸40号及び同多木丸35号を順に引き、いずれも空倉のはしけ3隻と合わせ全長約190メートルの船列(以下「神鍬丸船列」という。)として、平成12年12月21日15時30分兵庫県尼崎西宮芦屋港を発し、同県東播磨港に向かった。
 ところで、東播磨港東方から明石港西方までの各南岸沖にかけては、次のように、のり養殖施設(以下、西方から順に1、2及び3の番号を付す。)が設置され、東播磨港二見南防波堤灯台(以下「南灯台」という。)から200度(真方位、以下同じ。)4.420メートルの地点を基点に、のり養殖施設1の南縁が基点から297度方向へ2.700メートル伸びており、基点から110度900メートルの地点を同施設2の南西端とし、同端から101度5.000メートルの地点を同施設3の南東端にして、各南縁沿いには適宜等間隔で標識灯が設置され、A受審人及びB指定海難関係人は、各南縁の存在と標識灯などの設置状況を了知していた。
 A受審人は、出港操船に続いて航海当直に就き、大阪湾北部を西行して明石海峡北西部に至り、19時30分明石港中外港南防波堤灯台から203度1.000メートルの地点において、針路を281度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.3ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針時、A受審人は、B指定海難関係人に航海当直を引き継いだが、同人はのり養殖施設1から同3まで、各南縁沖の航行経験が豊富なので大丈夫と思い、神鍬丸船列の操縦性能が相当に制約された状況であったから、のり養殖施設の各南縁から離れて、航行自由水域を確保できるよう、針路を適切に選定する旨の指示を行うことなく、操舵室から退いた。
 B指定海難関係人は、航海当直に当たって西行中、20時30分南灯台から189度4.600メートルの地点で、針路を297度に転じたものの、A受審人から針路の選定についての指示が無かったこともあり、これまで各のり養殖施設南縁沖を航過できたので大丈夫と考え、のり養殖施設1の南縁から離れるよう、290度までに針路を止めおくなど、適切に針路の選定を行わず、その後同施設1の南縁から60ないし70メートル沖の水域を続航した。
 そのうち、B指定海難関係人は、左舷船首方近くに漁船の灯火を認め、同灯火が船首方でM22の死角に入ったので、20時48分南灯台から225度4.650メートルの地点において、死角を解消するために右舵をとり右旋回を開始した。
 こうして、神鍬丸船列は、20時49分過ぎB指定海難関係人が漁船の灯火を確かめてすぐ、のり養殖施設1の南縁を示す標識灯に迫っていることを知り、左舵一杯をとったが及ばず、20時50分南灯台から229度4.700メートルの地点において、左回頭惰力を得て船首が287度になったとき、ほぼ原速力のまま、神鍬丸の右舷船尾がのり養殖施設1の南縁に衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で視界は良好であった。
 衝突の結果、右舷プロペラにのり養殖施設1の南縁のアンカーロープを巻き込み、右舷機のクラッチと同ロープとに損傷を生じた。

(原因)
 本件のり養殖施設衝突は、夜間、のり養殖施設各南縁沿いに東播磨港へ向かう際、針路の選定が不適切で、同施設南縁の至近水域を航行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、のり養殖施設の各南縁至近の水域を航行しないよう、針路を適切に選定する旨の指示を行わなかったことと、同船橋当直者が針路を適切に選定しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、のり養殖施設各南縁沿いに東播磨港へ向かう際、B指定海難関係人に航海当直を引き継ぐ場合、神鍬丸船列の操縦性能が相当に制約された状況であったから、のり養殖施設の各南縁から離れて、航行自由水域を確保できるよう、針路を適切に選定する旨の指示を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B指定海難関係人はのり養殖施設の各南縁沖の航行経験が豊富なので大丈夫と思い、針路を適切に選定する旨の指示を行わなかった職務上の過失により、同施設南縁至近を航行して同施設との衝突を招き、右舷プロペラに同施設1の南縁のアンカーロープを巻き込み、右舷機のクラッチと同ロープとに損傷を生じさせるに至った。
 B指定海難関係人は、夜間、1人で航海当直に当たり、のり養殖施設各南縁沿いに東播磨港へ向かう際、同施設1の南縁から離れるよう、290度までに針路を止めおくなど、針路を適切に選定しなかったことは本件発生の原因となる。





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