(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月7日21時35分
兵庫県姫路港
2 船舶の要目
船種船名 |
押船宮城丸二号 |
バージ(大)ビー−365 |
総トン数 |
195.69トン |
|
全長 |
30.50メートル |
60.00メートル |
幅 |
|
14.00メートル |
深さ |
|
4.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
1.912キロワット |
|
船種船名 |
交通船幸州2 |
総トン数 |
10トン |
登録長 |
11.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
279キロワット |
3 事実の経過
宮城丸二号(以下「宮城丸」という。)は、鋼製押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.1メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、浚渫土砂約1.000立方メートルを積載し、船首尾2.8メートルの等喫水となったバージ
(大)ビー−365(以下「バージ」という。)の船尾凹部に宮城丸の船首部をあて、同船の船尾両舷及び船首から係船索を1本ずつ繰り出し、バージの船尾両舷及び船尾中央の各ビットにそれぞれ止め、全長約90メートルの押船列とし、平成12年6月7日18時00分兵庫県姫路港飾磨区第1区(以下、港区の名称に冠する「姫路港」を省略する。)の浚渫現場を発し、同県尼崎西宮芦屋港の尼崎沖埋立処分場に向かった。
A受審人は、目的地への到着時刻調整のため広畑区第2区で錨泊することとし、18時30分広畑航路と飾磨航路との間の水域に至り、機関を停止し、バージの船首から水深約10メートルの海底に錨を投じ、錨鎖を4節延ばし、揚錨機の電源を落として錨泊を開始した。
錨泊したとき、A受審人は、宮城丸とバージの存在が他船から分かるよう、宮城丸のマストに停泊灯を、甲板室外壁に60ワットの通路灯を各舷3個ずつ点灯し、船橋後面から500ワットの投光器3個により宮城丸の後部甲板を照射したほか、船橋前面から500ワットの投光器2個によりバージを後方から照射し、バージの船首甲板上で海面から高さ約4メートルに設置された光達距離7.5キロメートルの乾電池式白色全周灯(以下「白色灯」という。)と、その後方約1メートルに光達距離5キロメートル4秒に1回白色閃光を発する乾電池式点滅灯(以下「点滅灯」という。)をそれぞれ点灯した。
A受審人は、気象状況が良好なので守錨当直を立てず、乗組員または自らが適宜甲板上を見回ることにしていたところ、21時35分飾磨新西防波堤灯台から217度(真方位、以下同じ。)1.020メートルの地点において、131度に向首したバージの左舷前部に、幸州2の船首が直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
また、幸州2は、船体中央部に操舵室を有し、建設作業員の送迎に従事する軽合金製交通船で、飾磨区第1区で同作業員を下船させたのち、B受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日21時10分同第1区を発し、航行中の動力船の灯火を表示して、兵庫県飾磨郡家島町坊勢の係留地に向かった。
B受審人は、発航時から操舵輪後方のいすに腰掛けて操舵と見張りに当たり、21時32分半飾磨新西防波堤灯台から182度100メートルの地点で、針路を221度に定め、機関を回転数毎分1.800にかけ、12.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
定針したとき、B受審人は、正船首920メートルのところにバージの白色灯及び点滅灯の両灯火を視認できる状況であったが、船首少し右の宮城丸の明るい灯火をいちべつし、単独の錨泊船に見えたので正船首方に他船はいないと思い、前路の見張りを十分に行わず、バージの存在に気付かないまま、間もなく左舷前方に認めた第三船の灯火の動きを気にしながら続航した。
こうして、B受審人は、宮城丸被押バージに衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、これを避けないまま進行中、21時35分わずか前船首至近にバージの船影を認めたが、どうすることもできず、幸州2は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、バージは、左舷前部外板及びボラードに擦過傷を生じ、幸州2は、船首部を圧壊したが、のち修理され、B受審人が上顎骨骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、兵庫県姫路港広畑区において、幸州2が、見張り不十分で、錨泊中の宮城丸被押バージを避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、兵庫県姫路港広畑区を航行する場合、錨泊中の宮城丸被押バージを見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首少し右の宮城丸の明るい灯火をいちべつし、単独の錨泊船に見えたので正船首方に他船はいないと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、バージの存在に気付かず、宮城丸被押バージを避けないまま進行してバージとの衝突を招き、バージの左舷前部外板及びボラードに擦過傷を生じさせ、幸州2の船首部を圧壊させるとともに、自らが上顎骨骨折などを負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。