(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月1日02時55分
石川県猿山岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
押船旺秀丸 |
起重機船旺秀 |
総トン数 |
19トン |
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全長 |
13.45メートル |
57.00メートル |
幅 |
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20.00メートル |
深さ |
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4.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1.176キロワット |
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船種船名 |
漁船兼栄丸 |
総トン数 |
9.99トン |
全長 |
18.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
40キロワット |
3 事実の経過
旺秀丸は、鋼製押船で、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、喫水が船首尾とも1.8メートルの専ら港湾作業に従事する起重機船旺秀の船尾凹部に船首部を嵌合し、全長約59メートルの一体となった押船列(以下「旺秀丸押船列」という。)とし、船首2.6メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成11年4月30日17時30分荒天のため避泊した福井県福井港を発し、北海道石狩湾港に向かった。
ところで、旺秀丸押船列の操船する場所は、旺秀丸の船橋と旺秀左舷側船尾部の2階ミーティング室との2箇所があり、同室には、ダイヤル式遠隔操舵盤、機関の遠隔操縦装置、レーダー及びGPSプロッタなど航海計器が備え付けられ、入出港時以外の航海中には、ミーティング室で船橋当直が行われていたが、同室の窓から前方を見通すと、旺秀船首部に設置されているクレーン及び操縦室により、右舷船首3度から20度の範囲が死角となり、船橋当直者は、他船が右舷方から接近した際、旺秀の右舷側に赴き、同死角を補う見張りを行う必要があった。
A受審人は、船橋当直を自らとB受審人及びクレーン士のほか、死角を補う見張りのため、甲板員1人を各当直に付けて4時間交替の3直制に決め、出航後引き続いて船橋当直に就いて北上し、日没時、旺秀丸のマスト灯2灯、舷灯及び船尾灯、旺秀のマスト灯をそれぞれ点灯し、法定灯火を表示しないまま、22時ごろ次直者に針路などを引き継ぎ、自室で休息した。
B受審人は、翌5月1日02時00分猿山岬灯台から221度(真方位、以下同じ。)12.9海里の地点で、前直者と交替して甲板員と船橋当直に就き、針路を020度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で進行した。
02時30分B受審人は、6海里レンジで作動中のレーダーにより右舷船首方6.0海里のところに兼栄丸の映像を初認し、同時45分半猿山岬灯台から234度8.2海里の地点に至ったとき、南下中の同映像が船首やや右方2.3海里となり、右舷を対して航過することにし、針路を015度に転じて続航したところ、同映像の方位が右方に変わっていかなかったので、同時50分半同灯台から237度7.7海里の地点に達したとき、更に少し左転して010度に転針した。
B受審人は、02時51分兼栄丸の映像が右舷船首9度1.0海里となったのを認め、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、10度左転したので右舷を対して無難に航過できるものと思い、旺秀の右舷側に赴いて兼栄丸の灯火を目視により確かめるとともに、レーダーにより同船の方位変化を測定するなど、衝突のおそれの有無を判断できるよう、転針後の動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けずに進行した。
02時55分少し前B受審人は、右舷船首至近に海面に反射している兼栄丸の灯火を初めて視認し、衝突の危険を感じ、左舵一杯に続いて右舵一杯をとり、機関を停止したが効なく、02時55分猿山岬灯台から240度7.4海里の地点において、旺秀丸押船列は、原針路原速力のまま、旺秀の右舷後部に兼栄丸の右舷船首部が前方から17度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮時で、付近海域には北東方に流れる微弱な海流があり、視界は良好であった。
A受審人は、就寝中に衝撃を受けて目を覚まし、兼栄丸と衝突したことを知り、事後の処置に当たった。
また、兼栄丸は、船体中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で、船長F(昭和8年5月28日生、一級小型船舶操縦士免状受有、平成13年2月24日死亡により受審人指定が取り消された。)が1人で乗り組み、福井県のいかつり漁業許可証を受領する目的で、船首0.4メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成11年4月29日22時00分秋田県椿漁港を発し、福井県鷹巣漁港に向かった。
F船長は、佐渡島北方を経由して能登半島猿山岬沖合に至り、翌5月1日01時59分猿山岬灯台から309度4.1海里の地点に達したとき、針路を安島岬北方沖合に向く207度に定め、機関を全速力前進より少し落とし、7.5ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
F船長は、定針後、作動中のレーダーを停止して見張りに当たっていたところ、空腹を覚え、02時35分ごろ周囲に他船を見掛けなかったので、操舵室を離れて同室後方の炊事室に赴き、食事の支度を始めた。
02時51分F船長は、猿山岬灯台から242度6.9海里の地点に達したとき、左舷船首8度1.0海里のところに旺秀丸押船列の白、白、白、緑4灯を視認することができ、その後旺秀丸押船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、船橋を無人として周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同押船列の存在と接近状況に気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま、炊事室で食後のお茶を飲んでいるうち、兼栄丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
F船長は、衝突の衝撃により操舵室に戻り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、旺秀丸押船列は、旺秀の右舷側後部外板に擦過傷を生じ、兼栄丸は、右舷側船首部ブルワーク及びいかつり機に損傷を生じたほか、衝撃で海水ポンプのホースが外れて海水が機関室に浸水し、救助のため旺秀の甲板に吊り上げられた際、船体に損傷を生じ、同押船列により椿漁港に運ばれたが、のち廃船処理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、石川県猿山岬南西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上中の旺秀丸押船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る兼栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の兼栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、猿山岬南西方沖合を北上中、死角がある右舷船首方に兼栄丸のレーダー映像を認め、右舷を対して航過するつもりで転針した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、兼栄丸の灯火を目視により確かめ、レーダーにより同船の方位変化を測定するなど、転針後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左転したので右舷を対して無難に航過できるものと思い、転針後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、兼栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、旺秀の右舷側後部外板に擦過傷を生じさせ、兼栄丸の右舷側船首部ブルワーク及びいかつり機などに損傷を生じさせたほか、機関室に浸水させ、救助の際に船体が損傷し、廃船処理させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。