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平成13年横審第62号
件名

漁船第三寿丸漁船第六初栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年12月19日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(甲斐賢一郎、葉山忠雄、黒岩 貢)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第三寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第六初栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
寿丸・・・右舷船首アンカーローラーを破損
初栄丸・・・右舷後部FRP製オーニングに破口

原因
寿丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
初栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三寿丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の第六初栄丸を避けなかったことによって発生したが、第六初栄丸が、周囲の見張りを維持する体制が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年1月3日04時30分
 千葉県犬吠埼南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三寿丸 漁船第六初栄丸
総トン数 19トン 19トン
登録長 16.40メートル 15.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 404キロワット

3 事実の経過
 第三寿丸(以下「寿丸」という。)は、マグロ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成10年12月29日13時00分静岡県焼津港を発し、同月31日05時30分千葉県犬吠埼南東方200海里沖合の漁場に着き、操業を開始した。
 ところで、寿丸は、漁場において、毎早朝5時ごろから餌のアジを針に付けた全長48海里の縄を3、4時間かけて投縄したうえ漂泊待機し、13時ごろからこれを12、3時間かけて揚縄してマグロを漁獲し、その後次回投縄まで3、4時間を潮上りするか漂泊する形態で、1日1回の操業を10回ほど繰り返したのち、市場のある根拠地に帰港していた。
 A受審人は、操業を開始後、常時船橋にあって、投縄及び揚縄の両作業中は操船と操業指揮をとり、また、揚縄後次回投縄までの間、毎回潮上りを行い、船橋当直に就いていたため、同受審人が1回の操業で休憩がとれたのは、投縄後に船橋当直を維持せずに全員で休息する漂泊待機中の3、4時間のみで、慢性的な睡眠不足の状態にあった。
 翌11年1月3日02時00分A受審人は、北緯32度48.5分東経143度34分の地点で第3回目の揚縄を終了し、航行中の動力船であることを示す灯火に加えて黄色回転灯の灯火を操舵室上のレーダーマストに表示し、自ら単独の船橋当直に就いて潮上りのため、針路を315度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、機関回転数を全速力前進より少し下げ、折からの北西風と南東へ流れる海流に抗して7.4ノットの対地速力で、船首方からの波浪を受けて船首を左右に振りながら進行した。
 A受審人は、操舵室前部右舷寄りに置かれた背もたれ付きのいすに腰掛けた態勢で当直に当たり、03時ごろまで僚船と無線による情報交換を行った後、ラジオを聞きながら眠気を押さえていたものの、04時00分北緯32度59分東経143度21.5分の地点に達したころ、連日の操業の疲れと慢性的な睡眠不足から眠気を催すようになったが、他の乗組員も疲れているので寝かせておこうと思い、休息中の乗組員を起こして当直を交代するなど、居眠り運航の防止措置を十分とることなく、当直を続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
 04時17分半A受審人は、北緯33度00.9分東経143度19.3分の地点に至ったとき、正船首方2海里に、マスト灯、緑灯、黄色回転灯及び甲板上を照らす多数の作業灯を点灯して漂泊中の第六初栄丸(以下「初栄丸」という。)を視認でき、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りして気付かず、同船を避けないまま続航中、04時30分寿丸は、北緯33度02分東経143度18分の地点において、波浪の影響で船首が左に振れ、295度を向首したとき、原速力のまま、その右舷船首が初栄丸の右舷船尾部に前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、衝突に気付かず航走を続けたが、追いかけてきた初栄丸の無線の呼び出しで覚醒し、衝突の事実を知った。
 また、初栄丸は、マグロ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成10年12月26日12時00分和歌山県勝浦港を発し、同月29日05時00分犬吠埼南東方200海里沖合の漁場に着き、操業を開始した。
 ところで、初栄丸は、寿丸と同様の操業形態をとっていた。
 B受審人は、操業を開始後、常時船橋にあって、投縄及び揚縄の両作業中は操船と操業指揮をとり、投縄後揚縄までの間は船橋当直を立てないまま機関中立として漂泊し、また、揚縄後次回投縄までの間は、自ら操船して潮上りを行うか、同様に漂泊することとしていた。
 翌11年1月3日01時00分B受審人は、北緯33度07分東経143度12分の地点で、第4回目の揚縄を終了し、航行中の動力船であることを示す灯火及び紅白の操業灯に加え、黄色回転灯及び甲板を照らす作業灯6基を点灯して漂泊を始めたが、作業灯を点灯しているので接近する他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを維持する体制を十分にとることなく、全員を休息させ、同受審人は操舵室左舷寄りの床に腰をおろして側の壁に背をもたせかけて休息した。
 B受審人は、折からの北西風を左舷に受けながら、南東へ流れる海流に乗って南東方に2.2ノットの対地速力で圧流され、04時17分半北緯33度02.4分東経143度17.5分の地点に達し、船首が045度に向いていたとき、寿丸が右舷正横2海里のところに白、紅、緑の3灯及び黄色回転灯の灯火を示す態勢で接近し、その後方位が変わらずに接近していたものの、周囲の見張りを維持する体制が不十分で、このことに気付かないまま、警告信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続け、初栄丸は045度を向首した状態で、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、衝突の衝撃で目覚め、走り去った寿丸を追いかけ、船名を確認し、無線で衝突したことを知らせた。
 衝突の結果、寿丸は右舷船首アンカーローラーを破損し、初栄丸は右舷後部ブルワークに取り付けられたFRP製オーニングに破口、同オーニング上部の手すりに曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、犬吠埼南東方沖合において、寿丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の初栄丸を避けなかったことによって発生したが、初栄丸が、周囲の見張りを維持する体制が不十分で、寿丸の接近に気付かないまま、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置もとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、犬吠埼南東方沖合において、自らが単独の船橋当直に就いて潮上り中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の乗組員を起こして当直を交代するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、他の乗組員も疲れていたので寝かせておこうと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けたまま当直中、いつしか居眠りに陥り、前路で漂泊中の初栄丸を避けないで進行して同船との衝突を招き、寿丸の右舷船首アンカーローラーに破損を、初栄丸の右舷船尾ブルワークに取り付けられたFRP製オーニングに破口及び同オーニングの手すりに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、犬吠埼南東沖合において、漂泊する場合、向首接近する寿丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを維持する体制を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、多数の作業灯を点灯しているので接近する他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを維持する体制を十分にとらなかった職務上の過失により、寿丸の接近に気付かないまま、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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