(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月2日09時52分
横須賀港第7区
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船しらはま丸 |
総トン数 |
3,260トン |
全長 |
79.09メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,236キロワット |
3 事実の経過
しらはま丸は、千葉県浜金谷港と横須賀港第7区久里浜の間で定期運航に従事する2基2軸のディーゼル機関及び可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を有し、操舵室が船首後方13メートルに位置する、旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか7人が乗り組み、旅客180人を乗船させ、乗用車25台及びバス2台を搭載し、船首2.9メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成13年1月2日09時15分浜金谷港を発し、同人が操舵操船して久里浜の自社専用桟橋(以下「専用桟橋」という。)に向かった。
ところで専用桟橋は、フェリーターミナルの岸壁法線に対して78度の角度で北方に伸びて設置され、幅が10.0メートル、長さが西側で61.2メートル、東側で60.0メートルあり、その延長線上で北端から9.0メートル隔てて長さ4.52メートルのドルフィンが設けられていた。
A受審人は、港外に出たのち、機関を航海全速力の13.0ノットに掛け、操舵を甲板手による手動操舵で進行し、09時45分久里浜大塚根灯浮標の南方100メートルばかりの地点で、船首に甲板長及び甲板手1人及び船尾に甲板手1人を配置し、一等航海士をバウスラスタ操作につけ、専用桟橋の西側に着桟する予定で久里浜に向かった。
その後、A受審人は、針路を種々にとり、翼角を変えて徐々に減速しながら進行し、09時48分東京電力横須賀発電所内の煙突(高さ204メートル)(以下「発電所煙突」という。)から359度(真方位、以下同じ。)880メートル(以下、船位については操舵室を基準とする。)の地点で、針路を264度に定め、翼角を10度として港内全速力の6.0ノットとして続航した。
09時49分A受審人は、翼角を5度に下げて速力を3.0ノットとして進行し、同時49分半発電所煙突から343度910メートルに達して専用桟橋延長線を過ぎたところで左舵15度を令して回頭を始め、船首が約55度左転したころ船首方位を安定させてから、操舵についていた甲板手を船尾配置に向かわせて自ら操舵に当たり、折からの西風を左舷に受け、両舷CPPを種々に使用して前進行きあしを減じながら進行した。
09時51分A受審人は、発電所煙突から330度730メートルの地点に達したとき、3.0ノットばかりの過大な残速力で、専用桟橋に近づいたが、安全な速力で同桟橋に近づいていると思い、両舷CPPを全速力後進の翼角に使用するなど、機関の操作を適切に行うことなく、翼角を適宜後進に使用しながら続航し、同時52分少し前専用桟橋が至近に迫り、なお過大な残速力で近づいているので衝突の危険を感じ、両舷CPPを後進翼角15度とし、バウスラスタを右転一杯に使用したものの、及ばず、09時52分しらはま丸は、発電所煙突から330度680メートルの地点において、船首が167度を向き、2.0ノットの残速力で、その船首部が専用桟橋に後方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力5の西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
桟橋衝突の結果、乗客に負傷者はなかったが、しらはま丸左舷船首部の外板に設置されていた防護材に凹損を、専用桟橋のコンクリート製防舷物取付支柱に亀裂等の損傷をそれぞれ生じ、のち、いずれも修理された。
(原因)
本件桟橋衝突は、CPPを使用して横須賀港第7区の専用桟橋に着桟する際、機関操作が不適切で、過大な残速力で同桟橋に近づいたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、CPPを使用して横須賀港第7区の専用桟橋に着桟する場合、船体を一旦停止させたのち、同桟橋に近づくことができるよう、両舷CPPを全速力後進に使用するなど、機関の操作を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、安全な速力で同桟橋に近づいていると思い、機関の操作を適切に行わなかった職務上の過失により、過大な残速力のまま進行して同桟橋との衝突を招き、しらはま丸左舷船首部の外板に設置されていた防護材に凹損を、専用桟橋のコンクリート製防舷物取付支柱に亀裂等の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。