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平成13年横審第51号
件名

漁船第一大幸丸漁船第八喜隆丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年12月13日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、黒岩 貢、長谷川峯清)

理事官
酒井直樹

受審人
A 職名:第一大幸丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
B 職名:第八喜隆丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
大幸丸・・・左舷船首外板に破孔
喜隆丸・・・左舷中央部外板を大破、のち廃船
船長が左大腿打撲、甲板員が頸椎ヘルニア及び頭部打撲等

原因
大幸丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
喜隆丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第一大幸丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している第八喜隆丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八喜隆丸が、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月8日08時51分
 三重県大王埼北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一大幸丸 漁船第八喜隆丸
総トン数 17トン 2.6トン
全長 18.75メートル  
登録長   8.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 551キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 第一大幸丸(以下「大幸丸」という。)は、船体中央部船尾寄りに操舵室を設け、その上にフライングブリッジを有する延縄及び一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、漁獲物を水揚げしたのち帰港の目的で、船首0.8メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成11年11月8日07時50分三重県宿田曽漁港を発し、静岡県福田漁港に向かった。
 これより先、A受審人は、同受審人の息子が一級小型船舶操縦士の海技免状を取得したときに、大幸丸の船舶の区分を沿岸小型船から100海里未満の外洋小型船に変更したため、船舶職員法の乗組み基準により自らが船長として同船の運航に携わることができなくなったものの、沿岸小型船の適用区域を航行するのであれば受有する海技免状でも問題ないものと考え、同年11月7日宿田曽漁港に向けて福田漁港を出航したものであった。
 A受審人は、出航時からフライングブリッジで操船に当たって志摩半島南岸沖を東行し、08時39分少し前大王埼灯台から111度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点で、針路を福田漁港付近に向かう050度に定めたところ、折からの風波により、しぶきがかかる状況となったため、機関を半速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 その後A受審人は、これまで大王埼沖合を数多く航行した経験などから、この時期に同埼沖合でふぐ延縄漁船が操業していることを知っていたが、折しも操業する漁船がまばらであったので、友人ともども操舵室内に移動して見張りに当たり、08時45分わずか過ぎ大王埼灯台から066度1.7海里の地点において、正船首方0.5海里のところで操業中のふぐ延縄漁船を替わすために針路を043度に転じたとき、右舷船首方に前路を左方に横切る態勢の大型船を認め、同船が自船の正船首方を替わったところで元の針路に戻すこととし、その動静監視に気をとられながら続航した。
 A受審人は、08時49分大王埼灯台から058.5度2.5海里の地点に達したとき、右舷船首4度800メートルのところに第八喜隆丸(以下「喜隆丸」という。)を視認することができ、同船が漁ろうに従事している船舶が表示する形象物(以下「鼓形形象物」という。)を掲げていないものの、操業中のふぐ延縄漁船が点在する海域において、ゆっくりとした速力で北西方に進行しながら船首部で乗組員が何か作業に当たっている様子や自らもふぐ延縄漁に従事した経験などから、喜隆丸が同漁の漁ろうに従事していることが分かる状況となり、その後同船の方位に明確な変化がなく、互いに衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然として前示大型船の動静監視に気をとられ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、これらのことに気付かず、喜隆丸の進路を避けないまま進行した。
 08時51分わずか前A受審人は、船首至近に喜隆丸を初めて認め、左舵一杯としたが及ばず、08時51分大王埼灯台から056度2.9海里の地点において、大幸丸は、030度に向いたとき、原速力のまま、その船首が喜隆丸の左舷中央部にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、喜隆丸は、ふぐ延縄漁業に従事する船体中央部船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が甲板員と2人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.9メートルの等喫水をもって、同8日07時20分三重県甲賀漁港を発し、大王埼北東方沖合約3海里の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、三重県志摩南部地区ふぐ延縄連合組合に所属し、同組合が指定する大王埼北東方沖合の操業海域で、長さ1,000メートルのナイロン製幹縄に釣り針を付けた枝縄を9メートル間隔で結び、北西方向に進行しながら約10分間かけて幹縄を投入し、その後投縄開始地点に戻って約20分間待機したのち、右舷船首部の甲板上に両ひざをつき、船尾方に向いた姿勢で約40分間かけて幹縄を手繰り揚げていた。また、同受審人は、幹縄を垂直に手繰り揚げるために、投入した幹縄に対して船首を左方に約15度開いた角度に保ち、揚縄状況に応じてゆっくりと船体を前進させるように、操舵室に配した甲板員に操船の指示を出していた。
 B受審人は、操業中のふぐ延縄漁船が点在する漁場に到着し、07時40分大王埼灯台から064度3.1海里の地点で、鼓形形象物を掲げずに幹縄の投入作業に取り掛かり、同作業を終えたところで前示投縄開始地点に戻って待機したのち、08時15分いつものように甲板員を舵輪と主機クラッチの操作に当たらせて揚縄作業を始め、実効針路が投入した幹縄に沿う315度となるように船首を300度に向け、機関を極微速力前進にかけたまま主機クラッチのかん脱を繰り返し、0.8ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 08時49分B受審人は、大王埼灯台から056.5度2.9海里の地点に至り、揚縄作業が終りに近づいたころ、左舷船首73度800メートルのところに、大幸丸を視認することができ、その後同船の方位に明確な変化がなく、互いに衝突のおそれのある態勢で接近したが、接近する他船が揚縄作業中である自船を認めて避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので大幸丸に気付かなかった。
 B受審人は、08時50分半ほぼ左舷正横200メートルのところに、自船に向首して接近する態勢の大幸丸を初めて認めたものの、日ごろから僚船間で情報交換などを行うことがあったため、同船も漁模様を尋ねに来航するものと考え、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、更に間近に接近しても機関を使用して前進するなど、大幸丸との衝突を避けるための措置をとらずに続航中、08時51分わずか前甲板員が、至近に迫っても減速しない同船に不安を感じて機関を全速力後進にかけたが、とき既に遅く、喜隆丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大幸丸は、左舷船首外板に破孔を生じたが、のち修理され、喜隆丸は、左舷中央部外板を大破し、のち廃船処理され、B受審人が左大腿打撲を、喜隆丸甲板員が頚椎ヘルニア及び頭部打撲等をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、三重県大王埼北東方沖合において、大幸丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している喜隆丸の進路を避けなかったことによって発生したが、喜隆丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、三重県大王埼北東方沖合において、操業している漁船が点在する海域を東行する場合、右舷船首方で漁ろうに従事している喜隆丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、正船首方の漁船を替わすために転針したとき、右舷船首方に前路を左方に横切る態勢の大型船を認め、その動静監視に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、喜隆丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、大幸丸の左舷船首外板に破孔を生じさせ、喜隆丸の左舷中央部外板を大破させ、B受審人に左大腿打撲を、喜隆丸甲板員に頚椎ヘルニア及び頭部打撲等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、三重県大王埼北東方沖合において、漁ろうに従事する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、接近する他船が揚縄作業中である自船を認めて避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほぼ左舷正横から接近する大幸丸に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、更に間近に接近しても機関を使用して前進するなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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