(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月20日05時45分
北海道恵山岬北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十一吉福丸 |
漁船八洋丸 |
総トン数 |
19トン |
9.88トン |
全長 |
24.00メートル |
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登録長 |
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14.45メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
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漁船法馬力数 |
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90 |
3 事実の経過
第二十一吉福丸(以下「吉福丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか甲板員2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成12年9月19日12時10分青森県大畑港を発し、北海道恵山岬北方沖合の漁場に向かい、いか700キログラムを漁獲したところで操業を終え、翌20日04時15分恵山岬灯台から354度(真方位、以下同じ。)24.4海里の地点を発進して帰途に就いた。
発進時、A受審人は、両甲板員を操舵室後部の寝台と船尾の船員室でそれぞれ休息させ、単独の船橋当直に当たり、針路を169度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行中、04時20分自動操舵装置の使用を開始し、操舵室中央部の椅子に腰を掛けて続航した。
05時40分A受審人は、恵山岬灯台から001.5度9.8海里の地点に達し、尿意を催したとき、周囲を一瞥(いちべつ)しただけで、船首方1,600メートルばかりのところに存在する八洋丸を見落とし、周辺に航行の支障となる他船はいないものと思い、休息中の甲板員を当直に立てるなど見張りを行わせる措置をとることなく、操舵室を無人としたまま船尾の便所に赴いた。
05時42分A受審人は、恵山岬灯台から002度9.4海里の地点に至り、船首方970メートルばかりのところで漂泊中の八洋丸に向首し、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、前示のとおり操舵室を無人とし、甲板員に見張りを行わせていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航し、小用を終えて操舵室に戻って前方を見たとき至近に同船を認め、驚いて機関を後進にかけたが及ばず、吉福丸は、05時45分恵山岬灯台から003度8.8海里の地点で、原針路のまま約3ノットに減速したその船首部が八洋丸の左舷中央部に後方から79度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
また、八洋丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同20日02時00分北海道鹿部漁港を発し、恵山岬北方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、漁場到着ののち05時20分前示衝突地点付近で、投網作業を終了し、06時15分の揚網作業開始時刻まで待機するつもりで、機関を回転数毎分800にかけたままクラッチを切り、090度を向首して漂泊した。
漂泊後、B受審人は、甲板員を船員室で休息させ、自らは操舵室の床上に座って食事をとったのち、05時35分立ち上がって周囲の見張りを行ったところ、航行に支障となる他船を認めなかったので、再度、操舵室中央部の床上に船首方を向いて座った姿勢で、当日の漁模様のことなどを考えながら待機した。
05時42分B受審人は、左舷船尾79度970メートルばかりのところに、自船に向首する吉福丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、航走中の他船が漂泊中の自船を避航するものと思い、周囲の見張りを行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に接近するに及んで衝突を避けるための措置をとることなく前示のとおり衝突した。
衝突の結果、吉福丸は船首部に擦過傷を生じ、八洋丸は操舵室左舷側を損壊し、中央部左舷側及び船底外板に亀裂(きれつ)等を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、漁場から恵山岬北方沖合を帰航中の吉福丸が、操舵室を無人とし、見張り不十分で、前路で漂泊中の八洋丸を避けなかったことによって発生したが、八洋丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、漁場から単独の船橋当直に当たり、恵山岬北方沖合を帰航中、尿意を催して操舵室を離れる場合、操舵室を無人とせず、休息中の甲板員を当直に立てるなど見張りを行わせるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、周囲を一瞥して航行に支障となる他船はいないと思い、操舵室を無人として便所に赴き、甲板員に見張りを行わせなかった職務上の過失により、八洋丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、吉福丸の船首部に擦過傷並びに八洋丸の操舵室、中央部左舷側及び船底外板に亀裂等をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、恵山岬北方沖合において漂泊する場合、吉福丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、航走中の他船が漂泊中の自船を避航するものと思い、操舵室中央部の床上に座った姿勢で考えごとをし、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、吉福丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとることなく衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。