(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年12月2日09時35分
北海道釧路港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁業調査船北辰丸 |
漁船第三十二幸漁丸 |
総トン数 |
216トン |
9.1トン |
全長 |
43.81メートル |
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登録長 |
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13.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
956キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
北辰丸は、漁業に関する試験又は調査業務に従事し、可変ピッチプロペラを装備する鋼製漁業調査船で、A受審人ほか18人が乗り組み、調査員1人を同乗させ、根室海峡周辺におけるすけとうだらの分布調査の目的で、船首1.6メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成11年12月2日09時30分北海道釧路港東区の専用岸壁を発し、同海峡に向かった。
ところで釧路港東区は、西防波堤、北防波堤、南防波堤及び陸岸等により囲まれた水域で、北防波堤と南防波堤との間には港則法に規定する釧路航路が設定されていた。また、同航路は航路幅約220メートルで、防波堤の港奥側約250メートル、港外側約700メートルにわたり設定されていた。
A受審人は、通信長を見張り、三等航海士を操舵及び二等機関士を機関操縦盤にそれぞれ就けて離岸操船に当たり、離岸後、09時31分釧路港東区北防波堤南灯台(以下「北防波堤南灯台」という。)から090度(真方位、以下同じ。)770メートルの地点で、針路を釧路航路に向く267度に定め、翼角を微速力前進の7度とし、5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針時、A受審人は、南防波堤沖側を北上する第三十二幸漁丸(以下「幸漁丸」という。)を初認し、09時33分少し過ぎ北防波堤南灯台から093度410メートルの地点に達したとき、船首左舷5度690メートルのところに、同船が釧路航路に入航するのを認めた。このときA受審人は、自船が釧路航路に間もなく入航して幸漁丸と同航路内で行き会うことになり、その動静監視を行っていたところ、同船が同航路内を斜航したまま衝突のおそれのある態勢で進行し、かつ、同船の前部甲板にテントが設置されて前路の見通しが妨げられ自船を視認していないおそれのある状況を認めたものの、幸漁丸がやがて同航路内の右側に寄せることを期待し、早期に警告信号を行うことなく続航し、09時34分半わずか前北防波堤南灯台から097度250メートルの地点で同航路に入航して航路内の右側を航行した。
09時35分少し前A受審人は、転針することなく接近する幸漁丸との衝突の危険を感じて、機関後進を令し、続いてサイレンで短音を発したが及ばず、北辰丸は、09時35分北防波堤南灯台から100度195メートルの地点において、ほぼ原針路で行きあしが停止したその左舷船首部に、幸漁丸の左舷船首部が前方から8度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、幸漁丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同月1日22時00分釧路港を発し、同港南南東方20海里ばかりの漁場に向かい、操業の後、翌2日07時00分同漁場を発進して帰途に就いた。
ところで、幸漁丸は、前部甲板に作業用緑色ビニール製テントを設置していたため、操舵位置からは、船首左舷2点から同右舷2点の範囲に死角を生じていた。
B受審人は、発進時から単独の船橋当直に就き、機関を全速力前進にかけ9.0ノットの速力で進行し、09時33分少し過ぎ釧路航路内の北防波堤南灯台から245度290メートルの地点に達したとき、0.25マイルレンジとしたレーダーを一瞥(いちべつ)しただけで、前路に他船はいないものと思い、いつものように目的の岸壁に向け、同航路内を斜航することとなる079度の針路に定め、遠隔操舵装置により続航した。
定針したとき、B受審人は、右舷船首3度690メートルのところに釧路航路に向首する北辰丸が存在し、その後同船と同航路内で行き会い衝突のおそれがあることを認め得る状況であったが、船首に見張員を配置するなど死角を補う見張りを行わなかったので、同船に気付かず、同航路内の右側を航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとることなく進行中、09時35分少し前同船のサイレンの短音を間近に聞き、慌てて機関を全速力後進にかけ、右舵一杯をとったが効なく、幸漁丸は、ほぼ原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、北辰丸は左舷船首部に凹損を生じ、幸漁丸は左舷船首部に亀裂(きれつ)等を生じたが、のち両船とも修理された。
(原因)
本件衝突は、両船が釧路港内を航行中、東行する幸漁丸が、見張り不十分で、釧路航路内の右側を航行しなかったばかりか、西行する北辰丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、北辰丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、釧路航路内を航行する場合、前部甲板に設置したテントにより操舵室から前方の見通しが妨げられる状況であったから、前路の北辰丸を見落とさないよう、船首に見張員を配置するなど船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、短距離レンジとしたレーダーを一瞥しただけで、前路に他船はいないものと思い、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、北辰丸に気付かず、航路内の右側を航行しなかったばかりか、同船との衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、北辰丸の左舷船首部に凹損を、幸漁丸の左舷船首部に亀裂等をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、釧路航路に向け進行中、幸漁丸が斜航して同航路内において行き会い衝突のおそれのある態勢で進行し、かつ前部甲板にテントが設置されて前路の見通しが妨げられ自船を視認していないおそれのある状況で接近するのを認めた場合、早期に警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、幸漁丸がやがて同航路内の右側に寄せることを期待し、早期に警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。