(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月5日07時20分
熊本県合津港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート一栄丸 |
プレジャーボート(船名なし) |
総トン数 |
4.39トン |
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全長 |
11.6メートル |
2.7メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
176キロワット |
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3 事実の経過
一栄丸は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.38メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成12年11月5日07時05分熊本県樋合漁港を発し、八代海大築島付近の釣場に向かった。
A受審人は、操舵室左舷の操縦席に腰掛けて操船に当たり、同乗者3人を操舵室後部の甲板に座らせ、池島ノ瀬戸を通り、天草4号橋(前島橋)を通過し、07時19分半合津港長瀬灯標(以下「長瀬灯標」という。)から341度(真方位、以下同じ。)710メートルの地点で合津港港内に入ったとき、針路を136度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で、左側の中島と右側の前島との間の水路を手動操舵によって進行した。
A受審人は、左舷方の中島南西側沿岸に設置された養殖筏に沿うよう進行し、07時19分半少し過ぎ長瀬灯標から345度620メートルの地点に達したとき、右舷船首3度150メートルに中島に向かう手漕ぎゴムボートを認めた。
A受審人は、そのまま進行するとゴムボートの前路に進出し衝突の危険があったが、ゴムボートの速力が遅かったので前方を何とか航過できるものと思い、直ちに停止したり右転するなどの措置をとることなく続航し、07時20分長瀬灯標から352度505メートルの地点において、一栄丸の船首部が、原針路原速力のまま、ゴムボートの左舷前部に前方から78度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、プレジャーボート(船名なし)は、全幅1.32メートルの空気膨張式ゴム製手漕ぎボートで、B指定海難関係人が単独で乗り組み、ちぬ釣りの目的で、0.1メートルの等喫水をもって、同日07時10分長瀬灯標から338度395メートルの前島北東岸から漕ぎ出し、中島側の養殖筏に向かった。
B指定海難関係人は漕ぎ出すとき、ボートのほぼ中央部のシートに船尾方を向いて腰掛け、両舷に出したオールを漕ぎ、時々船首方を振り向いて進行方向を確かめながら、034度の方向へ0.5ノットの対地速力で進行した。
B指定海難関係人は、07時19分半少し過ぎ前示衝突地点付近に達したとき、自分の右側、左舷船首75度150メートルに一栄丸を認め、少しの間様子を見ていたところ、同船はわずかに船首を左右に振りながら自船の方に接近してくるので衝突の危険を感じ、漕ぐピッチを上げたが、衝突は避けられないと思い、船首から海中に飛び込むとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、一栄丸に損傷はなく、ゴムボートは破口を生じ、B指定海難関係人が左大腿骨を骨折した。
(原因)
本件衝突は、熊本県合津港において、一栄丸が、前島と中島の間の水路を航行中、プレジャーボート(船名なし)の前路に進出したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、合津港港内の、前島と中島の間の水路を航行中、船首わずか右方に手漕ぎのゴムボートを認めた場合、そのまま進行すると同ボートの前路に進出する危険があったから、直ちに停止したり右転するなどの措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのまま進行しても何とかゴムボートの前方を航過できるものと思い、直ちに停止したり右転するなどの措置をとらなかった職務上の過失により、ゴムボートの前路に進出して衝突を招き、ゴムボートに破口を生じさせ、B指定海難関係人に左大腿骨骨折を負わせるに至った。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。