(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年3月19日09時45分
福岡県玄界島玄界漁港沖防波堤
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第参拾壱正進丸 |
総トン数 |
138トン |
登録長 |
29.32メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
367キロワット |
3 事実の経過
第参拾壱正進丸(以下「正進丸」という。)は、専らいか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、回航する目的で、船首1.00メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成11年3月19日08時40分福岡県博多漁港を発し、青森県八戸港へ向かった。
ところで、正進丸は、毎年4月に八戸港において入渠した後、5月初旬から7月下旬まで太平洋で赤いか漁に、8月初旬から12月下旬まで日本海でするめいか漁に、翌年1月初旬から3月下旬まで東シナ海でふぐすくい網漁にそれぞれ従事していたもので、平成11年3月16日ふぐすくい網漁を終え、翌々18日19時30分水揚げのため博多漁港に入港して魚市場前岸壁に着岸した。
A受審人は、水揚げ作業が翌朝になったので、23時30分過ぎに外出して機関員と飲食したのち、越えて19日01時00分ごろ帰船したところ、同機関員が、岸壁で小用中に誤って海中に転落したので、他の乗組員と共に同人を救助するなどして、就寝したのが02時30分ごろになり、その後も十分に睡眠がとれないまま、07時00分に起床して水揚げ作業を行い、前示のとおり出航した。
A受審人は、船橋当直を同人のみ単独とし、甲板長及び通信長の当直には甲板員をそれぞれ付けて3時間交替の三直制とし、出航操船に続いて船橋当直に当たり、08時52分博多港西公園下防波堤灯台から307度(真方位、以下同じ。)780メートルの地点に達したとき、針路を302度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
定針後、A受審人は、扉及び窓を閉めきった操舵室内で、温風ヒーターを作動させ、レーダーの後方に置いた背もたれ及び肘掛け付きの椅子に腰を掛けて見張りを行っていたところ、09時17分残島灯台が左舷720メートルに並航したころ、睡眠不足から眠気を催したが、まさか居眠りすることはないと思い、休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして、A受審人は、09時23分志賀島南西方の転針予定地点に達したものの、このことに気付かず、転針することなく玄界島の玄界漁港沖防波堤に向首したまま続航中、09時45分玄界港第1号防波堤灯台から154度100メートルの玄界漁港沖防波堤に原針路、原速力のまま衝突した。
当時、天候は晴で風力5の北風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
衝突の結果、船首部に凹損及び亀裂を、玄界漁港沖防波堤にコンクリートの破損脱落及び亀裂をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、博多漁港から福岡湾口に向けて西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、玄界島玄界漁港沖防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、博多漁港から福岡湾口に向けて西行中、椅子に腰を掛けたまま単独で船橋当直に当たり眠気を催した場合、睡眠不足の状態であったのだから、居眠り運航とならないよう、休息中の乗組員を呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、まさか居眠りすることはないものと思い、休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、椅子に腰を掛けたまま単独で当直を続けて居眠りに陥り、転針予定地点に達したことに気付かず、玄界島の玄界漁港沖防波堤に向首進行して同防波堤との衝突を招き、船首部に凹損及び亀裂を、同防波堤にコンクリートの破損脱落及び亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。