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平成12年門審第57号
件名

漁船第七泰世丸漁船昌丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、原 清澄、橋本 學)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第七泰世丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:昌丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
泰世丸・・・船首部に擦過傷
昌 丸・・・左舷船首部及びマスト等損傷

原因
昌 丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
泰世丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、昌丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事している第七泰世丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第七泰世丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月18日03時00分
 長崎県対馬北東方

2 船舶の要目
船種船名 漁船第七泰世丸 漁船昌丸
総トン数 75トン 7.3トン
全長 34.25メートル 16.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 672キロワット 426キロワット

3 事実の経過
 第七泰世丸(以下「泰世丸」という。)は、船首船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首2.00メートル船尾2.10メートルの喫水をもって、平成11年11月13日04時00分山口県下関漁港を発し、長崎県対馬沖合の漁場に向かい、同日10時00分ごろ同漁場に到着して操業を開始した。
 ところで、泰世丸は、2そうびきの沖合底びき網漁業に従事し、曳網中は主船として右側のひき綱に就き、従船である第八泰世丸を左側のひき綱に就けて、長さ約1,300メートルのひき綱により長さ約60メートルの底びき網を約2時間かけて曳網し、1回の操業に約3時間を要して1日に8回操業していた。
 同月18日02時20分A受審人は、三島灯台から061度(真方位、以下同じ。)17.9海里の水深約110メートルの地点において投網し、単独で操船に当たり、レーダーを作動して手動操舵に就き、トロールにより漁ろうに従事していることを示す灯火を表示したほか、網が出ている方向を示すために船尾マストの作業灯を点灯して船尾方を照射し、針路を180度に定め、3.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、第八泰世丸との間隔を約400メートルとして曳網を開始した。
 02時40分A受審人は、三島灯台から064度17.4海里の地点において、右舷前方に前後約5海里にわたり帯状を成した数十隻の漁船群が左舷灯を見せて北東方向に進行しているのを認め、これらの漁船群と進路が交差していたので、漁ろう甲板を照射する300ないし500ワットの各作業灯を点灯して注意を喚起し、同漁船群の動静と曳網状態を監視しながら続航した。
 02時50分A受審人は、三島灯台から065.5度17.2海里の地点において、漁船群の中の右舷船首39度2.0海里のところに昌丸の白、紅2灯を初めて視認し、同時55分同灯台から066度17.1海里の地点に達したとき、昌丸が同方位1.0海里のところとなり、同船が前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認めたが、自船は法定の灯火のほか作業灯を点灯し、明るくして注意を喚起しているので、昌丸は自船が曳網していることに気づいており、同船の方で自船の進路を避けるものと思い、同船の動静を注視して進行した。
 こうして、A受審人は、02時57分少し過ぎ三島灯台から066.5度17.1海里の地点において、昌丸が右舷船首39度1,000メートルのところに接近し、その後も避航動作をとらないまま接近する同船に対して警告信号を行わず、同時59分昌丸が同方位380メートルのところに迫って衝突の危険を感じ、ようやく警告信号を行うため汽笛信号装置のひもを引いたが、同装置が故障していて汽笛を吹鳴することができず、昌丸に対して避航を促すことができないまま同船に接近し、03時00分三島灯台から067度17.0海里の地点において、泰世丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が、昌丸の左舷船首部に前方から49度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の西北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、昌丸は、ひき縄漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.73メートル船尾1.73メートルの喫水をもって、同月18日01時00分長崎県比田勝港を発し、同港北東方約50海里の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、同年春から夏にかけて和歌山県田辺港を基地としてかつおひき縄漁を行った後、10月末から漁場を対馬沖に移し、比田勝港を基地としてよこわひき縄漁を行い、同港を夜間に出港し、早朝から操業を開始して夕刻帰港する操業形態を採っていた。
 B受審人は、航行中の動力船であることを示す灯火を表示し、手動操舵に就き、同じころ出航した多数のひき縄漁船とともに低速力で港口に向かい、港口付近に設置された定置網をかわし終えたところで、01時20分尉殿埼灯台から057度1,300メートルの地点において、針路を049度に定め、10.0ノットの速力で自動操舵によって進行した。
 B受審人は、操舵室左舷側でいすに腰をかけ、左舷側から波しぶきがかかっていたので旋回窓を回し、レーダーを作動しないで、同窓越しに見張りを行いながら続航していたところ、漁船群の間隔が次第に広がり、自船の付近には同航船が少なくなったこともあって気が緩み、眠気を催すようになった。
 B受審人は、眠気覚ましにコーヒーを飲むことにし、やかんに水を入れてコンロに点火した後、02時55分三島灯台から068度16.2海里の地点において、左舷船首10度1.0海里のところに泰世丸の灯火を初めて視認し、同船がトロールにより漁ろうに従事していることを認め得る状況であったが、同船の灯火を十分に確認しなかったので、同船が低速力で前路を右方に横切る態勢で接近していることを認めたものの、トロールにより漁ろうに従事していることに気づかなかった。
 そして、B受審人は、泰世丸が自船の左舷灯を明確に視認できるよう、短時間少し右に転舵して元の針路に復し、同船に対して左舷灯を示したことにより避航を促したので、同船の方が右転して自船の進路を避け、互いに左舷を対して通過できるものと思い、再びコーヒーを入れる用意を始め、その後は泰世丸に対する動静監視を十分に行わず、同船の進路を避けずに自動操舵のまま続航した。
 こうして、B受審人は、02時59分三島灯台から067度16.8海里の地点に達したとき、泰世丸が左舷船首10度380メートルのところに衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然として、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、同船がトロールにより漁ろうに従事していることも、衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気づかず、同船の進路を避けないまま進行し、コーヒーを入れて立ち上がったとき、昌丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、泰世丸は、船首部に擦過傷を、昌丸は、左舷船首部及びマストなどに損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県比田勝港北東沖合において、漁場に向かう昌丸が、動静監視不十分で、2そうびきのトロールにより漁ろうに従事している第七泰世丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第七泰世丸が警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、長崎県比田勝港北東沖合において、漁場に向けて航行中、第七泰世丸の灯火を認めた場合、同船の操業形態及び衝突のおそれの有無について判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、第七泰世丸が自船の左舷灯を明確に視認できるよう、短時間少し右に転舵して元の針路に復し、同船に対して左舷灯を示したことにより避航を促したので、同船の方が右転して自船の進路を避け、互いに左舷を対して通過できるものと思い、コーヒーを入れることに気を取られ、同船に対する動静監視を十分に行っていなかった職務上の過失により、同船がトロールにより漁ろうに従事していることも、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気づかず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、昌丸の左舷船首部及びマストなどに損傷を、第七泰世丸の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、長崎県比田勝港北東沖合において、2そうびきのトロールにより漁ろうに従事中、昌丸が避航動作をとらずに衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、そのうち昌丸の方で自船を避けるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船に避航を促すことができないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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