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平成13年門審第6号
件名

押船第二 三徳丸被押バージ第三 三徳丸漁船第三十八盛幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、西村敏和、橋本 學)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第二 三徳丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第三十八盛幸丸甲板員 海技免状:五級海技士(航海)

損害
三徳丸・・・船首部外板及び同内部材に曲損
盛幸丸・・・右舷船尾付近外板及びブルワークに曲損

原因
盛幸丸・・・狭い水道の航法(右側通行)不遵守、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
三徳丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三十八盛幸丸が、狭い水道の右側端を航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第二 三徳丸被押バージ第三 三徳丸が、衝突を避けるための措置を速やかにとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月15日10時50分
 福岡県西浦埼北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 押船第二 三徳丸バージ 第三 三徳丸
総トン数 100トン 約994トン
全長 27.01メートル 74.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  

船種船名 漁船第三十八盛幸丸
総トン数 99.19トン
全長 36.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 316キロワット

3 事実の経過
 第二 三徳丸は、非自航型砂利採取作業船である第三 三徳丸と一体となって福岡湾沖合の海砂採取に従事する、2基2軸でコルトノズル推進装置を有する押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首3.30メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、空倉で無人の第三 三徳丸の船尾凹部に船首部を嵌合(かんごう)して全長約92メートルの押船列(以下「三徳丸押船列」という。)を構成し、平成11年12月15日04時20分博多港の定係地を発し、砂利採取海域に向かった。
 07時15分A受審人は、西浦岬灯台から298度(真方位、以下同じ。)15.2海里の海域に至って作業を開始し、2時間ほどで海砂3,300トンを採取して同作業を終え、09時30分船首尾とも4.30メートルの喫水となった第三 三徳丸を押して帰途に就いた。
 A受審人は、発航操船ののち一等航海士に船橋当直を委ねて1時間ほど休息をとり、10時25分灯台瀬灯標の北東方1.5海里ばかりの地点で再び昇橋して単独の船橋当直に就き、同時39分少し前西浦岬灯台から281度1.2海里の地点に達したとき、針路を074度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で進行した。
 10時43分A受審人は、福岡湾西口にあたる、西浦埼と小机島との間の可航幅約800メートルの狭い水道に向かって西行する第三十八盛幸丸(以下「盛幸丸」という。)を、右舷船首34度1.8海里のところに初めて視認し、同船と同水道内で出会うことが予測されたものの、互いに水道の右側を航行し、左舷を対して航過するつもりで、同時43分少し過ぎ西浦岬灯台から308度1,250メートルの地点で機関を半速力前進に減じ、操舵を手動に切り替えて徐々に右転をしながら7.0ノットの対地速力で同水道右側に向けて続航した。
 10時46分半A受審人は、西浦岬灯台から338度750メートルの地点に達したとき、針路を129度とし、機関回転数を少し下げて6.0ノットの対地速力で進行しながら盛幸丸の動静を注目していたところ、同時47分半同船が左舷船首18度1,050メートルのところで、針路を左に転じ、同水道を斜航して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、狭い水道内で出会うこととなるので、間もなく同船が針路を右に転じて左舷を対して航過する態勢となるものと思い、満船の第三 三徳丸を押して操縦性能が十分でなかったのであるから、機関を使用して行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置を速やかにとることなく、そのまま進行した。
 10時48分少し過ぎA受審人は、盛幸丸が依然針路を右に転じないまま左舷船首18度750メートルに接近したとき、ようやく汽笛で短音5回を連吹して機関の回転数を下げ、同時49分半再び短音5回を吹鳴して機関を全速力後進にかけたが及ばず、10時50分西浦岬灯台から027度370メートルの地点において、三徳丸押船列は、原針路のまま約2ノットの速力となったとき、第三 三徳丸の船首が盛幸丸の右舷後部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、盛幸丸は、いか一本釣り漁業又はさばふぐのすくい網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人及び船長Hほか4人が乗り組み、すくい網漁を行う目的で、船首2.40メートル船尾2.90メートルの喫水をもって、同日09時40分博多港内の博多漁港を発し、東シナ海の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、五級海技士(航海)の免状を受有し、昭和52年から盛幸丸に船長として乗り組んでいたところ、途中病気療養のため、船長職を息子のKに引き継いで下船し、その後同免状が失効したが、更新手続きを行わないでいるうち、病状が良くなり、人手が足りなくなったので、同船に甲板員として乗り組むこととした。
 こうして、B受審人は、同日10時00分博多港内鵜来島北方において、発航操船を終えた船長と交代して船橋当直に就き、他の甲板員1人を見張りに当たらせて福岡湾口に向かい、同時17分残島灯台から023度520メートルの地点に達したとき、針路を福岡湾西口に向首する290度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で進行した。
 10時40分B受審人は、福岡湾西口の狭い水道に近づいたので、自らが手動操舵に切り替えて操舵に当たり、同時42分3海里レンジとしたレーダーで左舷船首5度2.1海里に三徳丸押船列の映像を初めて認め、肉眼でもこれを確認したところ、間もなく同押船列が自船の前路を左方から右方に替わり、その後徐々に右転を始め、同水道西側で東行する態勢となったことを認めたものの、同船が右舷側に見えていたことから互いに右舷を対して航過できるものと判断して続航した。
 10時47分半B受審人は、クタベ瀬南西灯浮標に並航する、西浦岬灯台から076度900メートルの地点に達したとき、自船の針路と三徳丸押船列の針路とが狭い水道内で交差する状況となったが、同水道の右側端につくよう、速やかに右転しないで、右舷を対して航過することを示すつもりで、更に左に針路を転じて280度にしたところ、水道を右側から左側に斜航し、衝突のおそれがある態勢で同押船列に接近する状況となった。しかし、B受審人は、依然相手船が左転するものと思い、機関を使用して行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとることなく、同一針路及び速力で続航中、同時49分半ごろ相手船の汽笛を聞き、衝突の危険を感じて左舵一杯をとったが及ばず、盛幸丸は、その船首が209度を向いたとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、第三 三徳丸は船首部外板及び同内部材に曲損を、盛幸丸は右舷船尾付近外板及びブルワークに曲損をそれぞれ生じ、盛幸丸はのち修理された。

(原因)
 本件衝突は、福岡湾西口の狭い水道において、西行中の盛幸丸が、水道の右側端を航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、三徳丸押船列が、衝突を避けるための措置を速やかにとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、福岡湾西口の狭い水道に向けて西行中、東行する三徳丸押船列を認め、これと同水道内で出会うことが予測された場合、水道の右側端に寄せて航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、三徳丸押船列を正船首方少し右に視認していたので、右舷を対して航過しようと思い、狭い水道の右側端に寄せて航行しなかった職務上の過失により、三徳丸押船列との衝突を招き、第三 三徳丸船首部外板等に曲損を、盛幸丸の右舷船尾付近外板等に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、福岡湾西口の狭い水道の右側に向けて東行中、船首方向左舷側に同水道内を斜航する態勢の盛幸丸を視認し、同船と衝突のおそれが生じた場合、満船のバージを押して操縦性能が十分でなかったのであるから、機関を使用して行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置を速やかにとるべき注意義務があった。ところが、同人は、そのうち相手船が右転するものと思い、衝突を避けるための措置を速やかにとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:50KB)





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