(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月7日06時17分
鹿児島県鹿児島港神瀬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二みや丸 |
漁船伊都丸 |
総トン数 |
2.0トン |
1.1トン |
全長 |
8.70メートル |
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登録長 |
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6.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
125キロワット |
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漁船法馬力数 |
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25 |
3 事実の経過
第二みや丸(以下「みや丸」という。)は、操舵室内のほかに船尾甲板でも操船できるよう、同室後部外側右舷寄りに、舵及び機関を操作できる後部操縦装置を設けているFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、一本釣りの目的で、船首0.25メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成12年5月7日05時00分鹿児島県鹿児島港本港区城南町船だまりを発し、同港内神瀬(かんせ)西方沖合1,000メートルばかりの釣り場に向かった。
05時20分A受審人は、釣り場に到着した後、魚群探知器により水深40メートルの地点であじの魚影を確認し、機関を中立運転として漂泊しながら、後部操縦装置の後方に置いたクーラーボックスに腰掛け、右舷側に釣り糸を出して手釣りによるあじ釣りを始め、潮流により100メートルほど流され、魚影が薄くなったところで、同操縦装置を操作して潮上りを行い、元の地点に戻る方法の釣りを繰り返していた。
ところで、みや丸は、腰掛けたまま後部操縦装置で操船を行うと、操舵室が妨げになり、船首方及び左舷側が見えにくいことから、平素、A受審人は同装置の後方に立ち、身体を左右に移動するなどして、前方の見張りを行っていた。
06時17分少し前A受審人は、神瀬灯台から275度1,130メートルの地点において、3回目の潮上りをする際、前路20メートルのところに漂泊している伊都丸を視認できる状況であったが、10分ほど前に立ち上がって前方を見た時、他船が見えなかったことから、前路には支障となるような船舶はいないものと思い、船尾操縦装置の後方に立ち、身体を左右に移動するなどして、前方の見張りを十分に行わなかったので、操舵室が妨げになり、同船に向首していることに気付かず、クーラーボックスに腰掛けたまま同操縦装置を操作して、針路を135度に定め、機関を前進の毎分回転数1,000として発進したところ、06時17分神瀬灯台から274度1,100メートルの地点において、みや丸は、原針路のまま、6.0ノットの速力で、その左舷船首が伊都丸の右舷船尾に後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、伊都丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人及び同受審人の妻が乗り組み、操業の目的で、船首0.10メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日05時00分鹿児島県鹿児島郡桜島町小池漁船だまりを発し、同県鹿児島港内神瀬西方沖合1,000メートルばかりの釣り場に向かった。
05時15分B受審人は、釣り場に到着した後、機関を中立運転として漂泊し、同受審人は船尾右舷側から、妻は船首右舷側からそれぞれ釣り糸を出し、手釣りによるあじ釣りを始め、潮流により流されたときには潮上りを行い、元の地点に戻る方法の操業を繰り返していた。
06時07分B受審人は、3回目の潮上りを終え、前示衝突地点付近に移動したのち、船首を155度に向け漂泊し、操業を再開していたところ、同時17分少し前右舷船尾20度20メートルに、自船の船尾に向けて突然発進するみや丸を認め、衝突の危険を感じたがどうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、みや丸の左舷船首外板に破口を、伊都丸の右舷船尾のビットに曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、B受審人が左肩関節に、同受審人の妻Eが頭部にそれぞれ打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、鹿児島県鹿児島港神瀬灯台西方沖合において、みや丸が、潮上りするに当たって、見張り不十分で、前路至近で漂泊中の伊都丸に向かって発進したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県鹿児島港神瀬灯台西方沖合において、潮上りするに当たって、後部操縦装置を操作して発進する場合、同装置後方に置いたクーラーボックスに腰掛けたままでは、操舵室が妨げになり、船首方及び左舷前方が見えにくい状況であったから、前路で漂泊する他船を見落とすことのないよう、立ち上がって身体を左右に移動するなどして前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、10分ほど前に周囲を見た時、他船が見えなかったので、前路に支障となるような船舶はいないものと思い、立ち上がって身体を左右に移動するなどして前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路至近で漂泊中の伊都丸に気付かず、同船に向かって発進して衝突を招き、みや丸の左舷船首外板に破口を、伊都丸の右舷船尾のビットに曲損をそれぞれ生じさせ、B受審人の左肩関節及び同受審人の妻Eの頭部にそれぞれ打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。