日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年門審第71号
件名

漁船十七号福丸プレジャーボート第三和丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、島 友二郎、原 清澄)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:十七号福丸漁ろう長兼一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第三和丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
福 丸・・・船首部外板のペイント剥離
和 丸・・・推進器軸及び梶軸を曲損、船底外板に破口、浸水
船長が外傷性頸部症候群等

原因
福 丸・・・船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
和 丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、十七号福丸が、船橋を無人とし、錨泊中の第三和丸を避けなかったことによって発生したが、第三和丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月11日05時30分
 鹿児島県串木野港南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船十七号福丸 プレジャーボート第三和丸
総トン数 199トン 1.70トン
全長 43.31メートル  
登録長   7.22メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 72キロワット

3 事実の経過
 十七号福丸(以下「福丸」という。)は、船体中央部に操舵室を有し、まぐろはえなわ漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、船舶検査受検のため、船首3.00メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成11年8月10日18時00分宮崎県目井津漁港を発し、鹿児島県串木野港の造船所に向かった。
 A受審人は、翌11日01時00分鹿児島県枕崎港南方沖合で単独の船橋当直に就き、薩摩半島西岸に沿って北上したのち、05時00分ごろ串木野港南西方沖合約4海里に至ったところ、日出の40分ばかり前でまだ暗かったことから、しばらく漂泊して明るくなるのを待ち、同時15分串木野港西防波堤南灯台(以下「西防波堤南灯台」という。)から223度(真方位、以下同じ。)5.1海里の地点を発進するとともに、針路を同灯台の灯火に向く043度に定めて自動操舵とし、機関を微速力前進にかけて5.0ノットの対地速力で、引き続き単独の当直に当たって同港港内に向かった。
 発進直後、A受審人は、前路を一瞥(いちべつ)して至近に他船の灯火を認めなかったことから、減速して航行しているので、短時間であれば船橋を無人としても大丈夫と思い、在橋して見張りに専念することなく、すぐに昇橋するつもりで自室に戻り、造船所の電話番号を調べるなどの入渠準備作業を始めた。
 A受審人は、05時27分西防波堤南灯台から223度4.1海里の地点に差し掛かったとき、正船首460メートルのところに第三和丸(以下「和丸」という。)が表示する白色全周灯1個、同船の白い船体及び付近の海面状態を視認でき、同船が全く移動しない様子から錨泊中であることが分かり、その後、同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、入渠準備作業に手間取り、依然船橋を無人としていたので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、05時30分西防波堤南灯台から223度3.9海里の地点において、福丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、和丸の右舷船尾部に後方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好で、日出は05時40分であった。
 また、和丸は、船体後部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、あじ釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日04時50分串木野港島平地区を発し、GPSプロッターに入力していた同港南西方沖合3海里の釣り場に向かった。
 B受審人は、GPSプロッターを見ながら目的の釣り場に至り、知り合いのプレジャーボートがすでに船首を東北東方に向けて錨泊していたので、同船の少し東側で回頭して船首を同船と同じ方向に向けたのち、05時15分前示衝突地点付近で、重さ20キログラムの錨を水深約45メートルの海底に投じ、直径12ミリメートルの合成繊維製錨索を70メートル延出して船首部のたつに係止し、操舵室上のマストに白色全周灯1個及びその下方に両色灯を表示し、機関を中立運転としたまま錨泊を開始した。
 その後B受審人は、操舵室に設置した魚群探知器で海底の状況などを確認したあと、船首部で釣りの準備を始め、05時27分船首が073度を向いていたとき、右舷船尾30度460メートルのところに福丸の白、緑、紅3灯を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、それまで串木野港に入港する船舶や出港する船舶が自船に接近しなかったことから、航行中の他船が錨泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、福丸が、更に接近しても機関を前進にかけて移動するなど、衝突を避けるための措置をとらずに錨泊を続けた。
 B受審人は、05時30分少し前ふと右舷後方を見て至近に迫った福丸を認め、船首部に置いていたステンレス製パイプで舷側をたたきながら同船に向かって叫び、続いて錨索を手繰り寄せて前進したが、及ばず、和丸は、船首が073度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、福丸は、船首部外板にペイント剥離を生じ、和丸は、推進器軸及び舵軸にそれぞれ曲損を生じ、船底外板に破口を生じて浸水したが、知り合いのプレジャーボートに付き添われて自力で串木野港に入港し、のちいずれも修理された。また、B受審人は衝突の衝撃で海中に投げ出され、自力で和丸にはい上がったが、外傷性頚部症候群、背部・側胸部打撲傷及び右肘部・左膝部打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、鹿児島県串木野港南西方沖合において、福丸が、同港港内に向けて航行する際、船橋を無人とし、前路で錨泊中の和丸を避けなかったことによって発生したが、和丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、鹿児島県串木野港南西方沖合において、単独の船橋当直に就いて同港港内に向けて航行する場合、在橋して見張りに専念すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、減速して航行しているので、短時間であれば船橋を無人としても大丈夫と思い、在橋して見張りに専念しなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の和丸に気付かず、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、福丸の船首部外板にペイント剥離を生じさせ、和丸の推進器軸及び舵軸にそれぞれ曲損を生じさせ、船底外板に破口を生じさせて浸水を招き、B受審人に外傷性頚部症候群、背部・側胸部打撲傷及び右肘部・左膝部打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、日出前の薄明時、鹿児島県串木野港南西方沖合において、錨泊して釣りの準備を行う場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、航行中の他船が錨泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する福丸に気付かず、機関を前進にかけて移動するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:38KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION