(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月14日21時20分
広島県 大野瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船雄進丸 |
プレジャーボートイーリス |
総トン数 |
4.9トン |
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登録長 |
12.10メートル |
7.13メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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2キロワット |
漁船法馬力数 |
90 |
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3 事実の経過
雄進丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、家族3人を乗せ、広島県佐伯郡宮島町において行われる宮島水中花火大会見物の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年8月14日16時00分山口県白木漁港を発し、厳島神社付近において花火見物ののち、マスト灯、両色灯及び船尾灯を表示し、21時06分ごろ帰途についた。
発航後A受審人は、家族をキャビンの中に入れ、単独で見張りと操舵に従事し、花火見物から帰る多数の船舶と前後しながら、大野瀬戸を西行した。
21時18分半A受審人は、玖波港防波堤灯台(以下「玖波港灯台」という。)から058度(真方位、以下同じ。)3,340メートルの地点に至り、大野瀬戸の中央が多数の船で混雑していたため、同瀬戸西部に設置されたかき養殖筏群とその北側の広島県佐伯郡大野町沿岸との間の水路を通航することとして針路を250度に定め、機関を全速力前進にかけ、操舵室に立って手動操舵により16.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針したとき、A受審人は、正船首430メートルのところに、同水路に向かって先航しているイーリスの船尾灯及びマスト頂部の白灯を視認できる状況で、その後同船を追い越す態勢となって続航したが、かき養殖筏施設の内側を航行する船舶はいないものと思い、操舵室前方の天幕や航走中の船首浮上によって生じた死角により前方の見通しが悪い状態であったものの、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行っていなかったので、同船の存在に気付かなかった。
21時19分半わずか過ぎA受審人は、玖波港灯台から056度2,830メートルの地点に達し、針路をNo.52号かき養殖筏に沿う228度に転じたところ、先航中のイーリスが正船首110メートルとなり、その後衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然として死角を補う見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまで、その進路を避けることなく進行した。
雄進丸は、同じ針路及び速力で続航中、21時20分玖波港灯台から58度2,650メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首がイーリスの右舷船尾に後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、イーリスは、汽笛としてエアホーンを装備した全長26フィートのFRP製プレジャーヨットで、B受審人が1人で乗り組み、家族及び友人合計5人を乗せ、前示花火大会を見物する目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日18時00分広島県玖波漁港を発し、19時00分厳島神社の北方沖合に到着し、同地点で停泊して花火大会を見物していたところ、友人が船酔いのため気分が悪くなってきたので帰航することとし、マスト灯、両色灯及び船尾灯を表示し、マスト上部に停泊灯を点灯したままとして、20時40分帰途についた。
発航後B受審人は、単独で見張りと操舵に従事し、機関を全速力前進よりやや落として5.6ノットの速力で大野瀬戸を南下し、やがてかき養殖筏群に近づき、夕方厳島神社沖に向かったときGPSに記憶させた航跡を逆にたどり、かき筏と陸岸により形成された比較的航行船の少ない海岸沿いの水路を通航することとし、21時16分玖波港灯台から058度3,350メートルの地点で、針路を250度に定めて手動操舵により進行した。
定針後B受審人は、花火大会の見物帰りの船が自船に追いつくようになり、21時18分半雄進丸が自船を追い越す態勢で正船尾方430メートルにあって、そのマスト灯や両色灯を視認でき、自船を追い越す状況となったが、後方から接近する船舶は自船を避けてくれるものと思い、後方の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かずに続航した。
21時19分B受審人は、玖波港灯台から056度2,820メートルの地点で、針路をNo.52号かき養殖筏施設に沿う228度に転じ、同時19分半わずか過ぎ雄進丸が正船尾方110メートルとなり、その後衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然として見張り不十分で同船に気付かず、エアホーンにより警告信号を行うことも、同船が自船の進路を避けないまま更に接近しても右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
21時20分わずか前、B受審人は、船尾にいた同乗者が至近に迫った雄進丸を認めて叫び声を上げたので後方を振り返って同船の接近に気付き、左舵一杯をとったが及ばず、船首が183度まで回頭したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、雄進丸は左舷船首に擦過傷を生じ、イーリスは右舷船尾に破口を生じ、浸水して沈没し、翌日引き揚げられたが廃船とされ、B受審人と同乗者2名が頭部打撲、頸椎捻挫等の傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、広島県大野瀬戸において、イーリスを追い越す雄進丸が、見張り不十分で、イーリスの進路を避けなかったことによって発生したが、イーリスが、見張り不十分で、警告信号を行わず、右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、操舵室前方の天幕により生じた死角により前方の見通しの悪い雄進丸を操縦し、花火大会見物帰りの船舶で混雑する大野瀬戸を航行する場合、先航するイーリスを見落とさないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、かき養殖筏の内側を航行する船舶はいないものと思い、死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、イーリスに気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、雄進丸の左舷船首に擦過傷を、イーリスの右舷船尾に破口を生じて沈没させ、B受審人と同乗者2名に打撲傷等の負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、花火大会見物帰りの船舶で混雑する大野瀬戸を航行する場合、後方から接近する雄進丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、後方から接近する船舶は自船を避けてくれるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、雄進丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。