(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月22日14時10分
岡山県犬島南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船さんおりんぴあ |
貨物船第七神晴丸 |
総トン数 |
763トン |
182トン |
全長 |
62.162メートル |
51.43メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,618キロワット |
514キロワット |
3 事実の経過
さんおりんぴあは、香川県土庄港と岡山県岡山港間に就航する船首船橋型の鋼製旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか6人が乗り組み、旅客14人及び車両3台を載せ、船首2.20メートル船尾2.90メートルの喫水をもって、平成13年2月22日13時35分土庄港を発し、岡山港に向かった。
これより先、岡山地方気象台より同日03時45分岡山県全域に濃霧注意報が発表され、11時40分からは同県南部のみに濃霧注意報が引き続き出され、岡山港側では濃霧のため両備運輸株式会社運航の全船が早朝から運航を中止していたところ、昼前から視界が回復し始め、視程が500メートルを超え、運航管理規程に基づく運航基準で定められた発航条件を満たすようになったので、運航が再開され、さんおりんぴあは、12時05分岡山港を出航して土庄港に至り、岡山港向けの第一便として前示のとおり出航した。
発航後、A受審人は、周囲の視界は良かったものの、引き続き濃霧注意報が出されていたので、念のため見張員を増員して当直体制を強化することとし、甲板長と甲板員1人を操舵室での見張り、機関長を見張りと機関操作、甲板員を手動操舵にそれぞれ就け、自らレーダー監視を行って操船の指揮に当たり、13時49分犬島白石灯標(以下「白石灯標」という。)から162度(真方位、以下同じ。)3.1海里の地点で、針路を325度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。同時55分同灯標から173度1.9海里の地点に達し、団子瀬東灯浮標を左舷側200メートルに並航したとき、針路を305度に転じ、犬島南西方沖合に設置された東西2区画ののり養殖施設間の可航幅1,100メートルばかりの水路に向けて続航した。
転針したころ、A受審人は、霧のため視界が急激に悪化し、それまで見えていた団子瀬東灯浮標を視認できなくなったので、航行中の動力船が掲げる法定灯火を点灯し、自動で霧中信号を開始するとともに機関回転数を徐々に毎分200ほどに減じて微速力の6.5ノットの速力とし、レーダー監視を続けながら進行した。
14時05分A受審人は、3海里レンジとしたレーダーにより右舷船首3度1.0海里のところに前示水路南口付近を南下中の第七神晴丸(以下「神晴丸」という。)の映像を初めて探知し、その監視を続けたところ、神晴丸と著しく接近することを避けることができない状況であったが、もう少しその動静を見守ってから対処しても大丈夫と思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく続航した。
14時08分A受審人は、神晴丸が同方位700メートルばかりに接近したとき、機関を停止し、前進惰力のまま進行中、同時10分少し前船首方至近に霧の中から現れた神晴丸の船体を初めて視認し、直ちに機関を全速力後進とするとともに汽笛を連続吹鳴したが及ばず、14時10分白石灯標から231度1.5海里の地点において、さんおりんぴあは、原針路のまま、行きあしがなくなったころ、その左舷船首に神晴丸の左舷船首が前方から17度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はなく、視程は約100メートルで、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、神晴丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、B受審人ほか2人が乗り組み、鋼材361トンを積載し、船首2.20メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同日10時30分岡山港を発し、大阪港に向かった。
B受審人は、発航して間もなく霧のため視界制限状態となったので、霧が晴れるまで仮泊することとし、岡山水道を通航したあと11時00分白石灯標から283度2.6海里の地点に投錨した。
13時45分B受審人は、霧が薄くなり、周囲の海面付近は視程が0.5海里ばかりに回復し、上空は南東方6ないし7海里離れた香川県小豆島の山頂まで見え始めたので、今後は更に視界が良くなると予測し、抜錨して目的地に向かった。そして、機関長と甲板員を操舵室での見張りに就け、自らは操舵室前部中央の舵輪後方に立って、手動操舵と左横の3海里レンジとしたレーダー監視に当たり、同時55分白石灯標から272度2.2海里の地点に達したとき、針路を132度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの速力で前示のり養殖施設間の水路に向けて進行した。
14時00分B受審人は、水路北口に差し掛かったとき、霧のため視界が急激に悪化し、右舷正横300メートルばかりの西側ののり養殖施設北東端を視認することができない状況となったものの、航行中の動力船が掲げる法定灯火を点灯せず、霧中信号を行わないまま、レーダー監視を行いながら続航した。
14時05分B受審人は、水路南口付近の白石灯標から249度1.6海里の地点に達したとき、レーダーにより左舷船首4度1.0海里のところにさんおりんぴあの映像を探知でき、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、3海里レンジとした調整不十分なレーダー画面の船首方に他船が映っていなかったことから、船首方に他船はいないものと思い、レーダーの海面反射抑制などの調整やレンジの切り換えを適切に行うなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく進行した。
14時08分B受審人は、さんおりんぴあが同方位700メートルばかりに接近していたものの、依然レーダーによる見張り不十分のまま、同船に気付かずに続航中、同時10分少し前船首方至近に霧の中から現れたさんおりんぴあの船体を初めて視認し、慌てて右舵一杯をとるとともに機関を全速力後進としたが及ばず、神晴丸は、船首が142度を向いて約5.0ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、さんおりんぴあは左舷船首部外板に破口を生じ、神晴丸は左舷船首部外板に凹損などを生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、両船が霧のため視界が著しく制限された岡山県犬島南西方沖合を航行中、南下する神晴丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張不十分で、さんおりんぴあと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、北上するさんおりんぴあが、レーダーにより前路に探知した神晴丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、霧のため視界が著しく制限された岡山県犬島南西方沖合を南下する場合、船首方から接近する他船を見落とすことのないよう、レーダーの海面反射抑制などの調整やレンジの切り換えを適切に行うなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、3海里レンジとした調整不十分なレーダー画面の船首方に他船が映っていなかったことから、船首方に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、さんおりんぴあに気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく進行して同船との衝突を招き、さんおりんぴあの左舷船首部外板に破口を、神晴丸の左舷船首部外板に凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、霧のため視界が著しく制限された岡山県犬島南西方沖合を北上中、レーダーにより右舷船首方に探知した神晴丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少しその動静を見守ってから対処しても大丈夫と思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。